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「最近こんな品々が戦地で渇望されてゐます!」

 なるほど、現在のところ、あまりに雑多に並べられているので、わかりにくい面もあるかもしれない。じっさい、開館当初は客足が伸びなかったという(昭和の駄菓子屋やタバコ屋を再現した展示スペースは、そのテコ入れで新設された)。だが、昭和史に興味をもつものならば、心に刺さるものがかならず見つかる。

昭和の駄菓子屋を再現した展示スペース

 筆者も、興味関心にもとづいて幾つか取り上げよう。

 まずは、戦時下の生活用品から。教室いっぱいに、ポスター、チラシ、寄せ書きされた日章旗などが飾られている。有り触れたものから、希少なものまで、これだけで何時間でも見ていられる。

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「白金の大動員」「戦争死亡傷害保険案内」「町政も第一線の心がけ」「一億で射落せ空の敵」。壁一面の資料のなかに、慰問袋の広告を見つけた。新潟県の百貨店が、前線の兵隊に品物を贈ろうと訴求しているものだ。

 そこには「最近こんな品々が戦地で渇望されてゐます!」として、「ウヰスキー」「梅酒」「スツポン酒」「皇国ぶどう酒」「耳かき」「爪切」「戦勝かみそり」「安全かみそり」などが値段つきで列挙されている。

 また「1円セット」「1円50銭セット」「2円セット」の「慰問組合せ袋」なるものも記されている。いつの時代もお任せのセットが重宝されたらしい。物価の資料としても、愛国ビジネスの資料としても、たいへん興味深い。

丸越新潟店の慰問袋広告。壁一面がこのような資料で埋まる

秋田市には東海林太郎音楽館も

 教育関係のコーナーも見逃せない。「兄弟ニ友ニ」「夫婦相和シ」「世務ヲ開キ」「学ヲ修メ」「業ヲ習ヒ」……。ひと目でピンときた。これらは教育勅語の徳目である。それに、関係する絵が添えられている。小学生にわかりやすく、教育勅語の内容を伝えようとしたものだろう。

 もちろん、教育勅語の本文も資料として展示されている。

教育勅語の徳目をイラスト化したもの。近くには教育勅語の原文も

 なお、LPレコードや電気蓄音機など音楽関係の資料も豊富だが、レコードについては、秋田市中心部にある東海林太郎(しょうじ・たろう)音楽館にもぜひ立ち寄ってほしい。

 東海林は秋田市出身で、早稲田大学を卒業し、南満洲鉄道株式会社に就職するも、脱サラして30代で歌手に転身したという異色の人物だ。「赤城の子守唄」「国境の町」「麦と兵隊」あたりが代表曲として知られる。

 同音楽館は、ビル2階の小ぢんまりとしたスペースだが、実家の軒先が移築されているなど、工夫が凝らしてあって面白い。秋田県庁で技師をしていた東海林の父が、この家をみずから建てたとも教えてもらった。戦前のSPレコードや歌詞カードは、ここでみるのが同市ではもっとも手っ取り早い。

 秋田市有数の繁華街・川反(かわばた)に近いので、アクセスの点でも申し分ない。

東海林太郎音楽館には、その実家の軒先が移築されている