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ブラックホールの存在も、最初は誰も信じなかった

 しかし、これらは決して、絶望的なハードルではありません。「実験室で宇宙を創造する」という研究が、ここまで着実に成果を積み上げてきていること、そしてなにより宇宙の謎を解き明かそうとする世界中の科学者たちの熱意に鑑みれば、新たな発見や解決策により、いずれこれらの壁も超えられるのではないかと私は考えています。

 宇宙はいかにして誕生したのか。私たち自身の手で宇宙を創造することはできるのか。こうした根源的な問いに挑むことは、それ自体に圧倒的な面白さがあります。「そんな突飛な研究をして何になるのか」と思われる人もいるかもしれませんが、そもそもブラックホールの存在も、宇宙が加速膨張しているという事実も、最初は誰も信じないような、突飛なアイディアが始まりでした。

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 そうしたもののすべてが正しかったり、現実になったりするわけではありませんが、何十年もかけて徐々に証明がなされたり、あるいは当初期待されていたものとは違う、思わぬ方向で学術的進展をもたらしたりすることは、この世界ではよくあることです。

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新たな科学の発見はここから生まれる

 本書では、「実験室で宇宙を創造する」研究の流れが、時系列に沿って非常にわかりやすくまとめられています。何より驚いたのは、グースやリンデ、グエンデルマンといった一流の研究者たちが、宇宙を作るという研究にこれほどの情熱を持っていたということです。彼らがそこまでの熱意を持ってこのテーマに取り組んでいるとは、私も本書を読んで初めて知り、非常に心強く感じました。

「科学は実験で検証しないと意味がない」と切り捨ててしまわずに、突拍子もないテーマにも広く関心を持ってみることから、新たな科学の発見は生まれる。本書には、そんなメッセージがこめられているように感じました。

ユニバース2.0 実験室で宇宙を創造する

ジーヤ・メラリ,坂井 伸之(解説),青木 薫(翻訳)

文藝春秋

2019年7月26日 発売