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「以前、当時37歳だった庵野秀明監督(59)が『僕世代のテレビっ子は、山口百恵のことならなんでも知っているけど学校で隣に座っている女の子のことはあまり知らない』とインタビューで語っていたんです。身近な人よりも、テレビの中の人に親近感を持っていると。僕もテレビっ子だったのですごく共感しました。ただ違ったことは、僕にとっての “山口百恵”は“アニメ”だった。そういう日本人は多いと思います。京アニに対して、隣の席の子どころか、自分の家族よりも親近感を持っていたりする。そんな大事な存在が見知らぬ悪意によって一瞬にして奪われたんです。怒りが収まらないのは当然です。

中村氏が京アニに興味をもつきっかけとなった「涼宮ハルヒの憂鬱」。作中のバンド演奏シーンの緻密さに圧倒されたという

 しかし強すぎる怒りは自分も傷つけるし、時として周囲を巻き込むこともあります。行為を肯定することはできませんが、ガソリンを撒いて火をつけた京アニの放火犯もそうなのかも知れない。容疑者の不遇な生い立ちが報道されていますが、彼も自分の境遇に対して怒りを募らせていた可能性が高いのではないかとも思うのです。

怒りを因数分解するワーク

 川崎殺傷事件の際も、今回も、『一人で死ねよ』という主張をする人はいます。しかし、そうした怒りは一つ間違えれば、社会全体的な憎悪として増大していってしまう可能性もある。だからこそ今、怒りを適切にコントロールする方法を多くの人に知ってほしいのです」

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放火された京都アニメーション第1スタジオ ©吉田暁史

 中村氏はDV加害者のためのカウンセリングを行っているが、まずは彼らの怒りを肯定することから始めるという。

「怒りから解放されるためには、まず怒りを感じている自分を認めなければいけない。怒ってしまったことに罪悪感を持つと、怒りと向き合うことができなくなってしまいます。カウンセリングでは、必要に応じてわざと怒らせることもあります。相手の怒りを十分に引き出したところで、ペンと紙を手渡すんです」

 そこから行われるのが、“怒りを因数分解するワーク”だ。

「紙にはその時に感じている怒りを詳細に書いてもらいます。倫理観は置いておいて、誰にどう怒っていて、どんな報復をしたいか、まずは自由に書いてもらう。ひとしきり怒りを紙に吐き出したら、それを見返して、時にはカウンセラーと協力しながら怒りを細かい感情に分解していく。怒りというのは二次感情なんです。根源には嫉妬、悲しみ、後悔などの一次感情が必ずある。怒りを一次感情に分解して客観的に見つめると、不思議と怒りが収まってくるんです」