8月3日、京都府警が「京都アニメーション」の放火事件で犠牲になった35名のうち10名の実名と身元を公表した。

 公表された10名のなかには、取締役として長く同社を支え、ベテランアニメーターとして「ドラえもん」などの原画を担当してきた木上益治さん(61)や、ファンが作品のロケ地を訪ねる「聖地巡礼」を定着させるきっかけとなった「らき☆すた」の監督・武本康弘さん(47)もいた。

 偉大なアニメーター10名の死が明らかになったことで、事件への悲しみと怒りを再認識させられた人も多いだろう。

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 戦後最悪の殺人事件で、日本社会には怒りが蔓延している。その怒りを制御するための「アンガーマネジメント」について、カウンセラーの中村カズノリ氏に話を聞いた。

怒りが社会全体に蔓延している

「京都アニメーション放火殺人で、自分の家族を奪われたような怒りに駆られている人は多いと思います。僕もアニメが大好きなので、京アニという会社も、そこから生み出される作品も大好きだった。ニュースを目にするたびに心が切り裂かれるような思いです。

 ただ、心配なのは『怒りは伝染する』という現実です。5月から無差別殺傷事件などが相次いだことで、社会全体に怒りが伝染し、充満しているように感じます。私のところにカウンセリングに来る方の中にも、『彼らを殺してやりたい』と口にする人がいる。『死ぬなら一人で死ね』と吐き捨てる人もいる。普段は穏やかで優しい性格の人ほど、世の中で起きている不条理を受け止めきれず、怒りを募らせている。私たちはいまこそ、怒りをコントロールする方法『アンガーマネジメント』を考えるべきなのです」

 そう語るのは、5月28日に起きた川崎大量殺傷事件、6月1日の農水事務次官息子殺人をきっかけに、通り魔を計画した過去を告白した、元DV加害者のカウンセラー・中村カズノリ氏(39)だ。

中村カズノリ氏。Twitter上で通り魔計画を告白したところ、瞬く間に拡散された

 7月18日に起きた京アニ放火事件はクリエイター35人の命を奪った。容疑者の青葉慎司(41)も全身に火傷を負い、現在も治療中だ。

 心理学的な見地から分析すると、青葉容疑者の犯行は、他人を巻き添えにした“拡大自殺”ではないかともみられている。弁護士の橋下徹氏は7月27日の報道番組「ウェークアップ!ぷらす」(日本テレビ系)で、青葉容疑者について「一人で死んでほしいですよ」と発言した。

 この凄惨な事件に心を痛めている人は日本だけにとどまらない。7月24日に開設された支援金口座には、6日間で国内外から10億5895万円の寄付が集まった。火災が起きた京都アニメーション第1スタジオ前には、今なお多くの人が献花に訪れている。