「暑さ日本一」から「暑さ対策日本一」へ?
ちなみに、国内最高気温はその後の13年8月、高知県四万十市が41・0度を記録したことで、熊谷市は抜かれた。だが、昨年7月の41・1度で再び首位に返り咲いている。
富岡清市長はこの時、「嬉しくも何ともない。『暑さ日本一』から『暑さ対策日本一』に転換したところに、ボディーブローを食らったようなものだ」と述べた。
市長の発言通り、市が力を入れているのは「暑さ対策」だ。
メニューは豊富で、「これだけ施策を展開している自治体は他にないと自負しています」と、担当職員が胸を張る。
ミストや休息所の設置、クールスカーフの配布……
JR熊谷駅などの階段には、涼しさが感じられるよう市民から公募した絵画をペイントする。駅入口には霧を噴射する「ミスト散布」の装置を取り付ける。イベントなどでは人々に噴霧器でミストをかけて回る。
熱中症予防のポイントを記したトイレットペーパーを公共施設に置く。濡らして首に巻くと涼しいクールスカーフを小学生と75歳以上の高齢者に配布する。公共施設22カ所に暑さしのぎの休息所を開設する。
市有施設約140カ所に飲料水や冷却剤などを入れた「熱中症応急キット」を備える。全中学生に暑さ対策の知識を身につけてもらい、部活動には部単位で「暑さ指数計」を配布する。国・県と役割分担して道路に熱をさえぎる舗装を施す。市民を対象にしたセミナーを開く……。
これらの施策で、市は数々の賞を受けてきた。
ただし、この8月1日には市内で、49歳の男性が熱中症で亡くなった。窓を閉め切り、冷房を切った自宅で発見されたという。「市役所として可能な暑さ対策はしています。でも、個人の生活にまで踏み込むことはできないので……」と担当者は言葉少なだ。
「日本一の暑さ」で人生が変わった人も
「暑さ対策日本一」としか言わない市役所には疑問を持つ人もいる。
「奥歯に物が挟まったような言い方をしても、暑さは隠しようがありません。日本一暑いとハッキリ言って、逆に暑さを利用する。熱中症対策も十分に行う。暑くて何が悪いんですか」
製茶店を営む小林伸光さん(48)は力を込める。
小林さんの人生は「日本一の暑さ」で変わった。