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国力を高めた韓国は「ガラガラポン」したい

 日韓が請求権協定を締結した1965年、韓国の国力は、GDPが北朝鮮を下回るほど小さかった。日本は、韓国と請求権協定を結ぶことで「経済協力金」や「独立祝賀金」の名目のもと無償で3億ドル(当時のレートで約1080億円)、有償で2億ドル(同720億円)、さらに民間借款でも3億ドルの資金を提供しました。この金額は、当時の韓国の国家予算の約2倍に相当します。

 当時の朴正熙政権は、日本からの資金を一括して受け取り、その後どうするかはあくまでも韓国政府の判断に拠るものとされました。こうした「一括補償(lump sum settlement)」という方式は、和解の一般的な方法ですし、戦後国際秩序の根幹を成すサンフランシスコ講和条約とも整合性がとれています。ごく一部、元「徴用工」にも支給されましたが、その資金の大部分はインフラ整備やダム開発にあてられ、「漢江の奇跡」と呼ばれる急速な経済発展を遂げるきっかけとなりました。

 このように、請求権協定を締結した1965年には、日韓のパワーバランスには明確な差がありました。しかし、いまや経済成長によって韓国の国力は飛躍的に高まりました。さらに、民主主義や人権など「普遍的な道義」という点では、韓国の方が先んじでいるとさえ自負しています。

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日本の資金注入され建てられた韓国最大の製鉄会社・浦項総合製鉄(1982年) ©AFLO

 韓国は、パワーバランスが変わったいまこそ、現行秩序に挑戦して「ガラガラポンしたい」と思っているのです。朝鮮戦争後、「外勢」に押し付けられた休戦協定体制から、「朝鮮半島における平和体制」を自ら創っていこうとしているのは、その際たる例です。

 この「現行秩序=旧体制」を「ガラガラポンしたい」という思いは、韓国にとどまらないでしょう。

 日本はいつまでも国連憲章において依然として「敵国」ですし、安全保障理事会の常任理事国にも入れない。中国は、広い太平洋を前に、いつまでこの狭い海岸線に押し込められているのかと不満です。アメリカが、安全保障でも経済でも「世界全体を支えるのは無理だ」と宣言しているのも、同じ流れの話です。

 そういう潮流の中で日本は、総理のメッセージを出したり、慰安婦問題をめぐる諸対策を講じたりすることで、韓国の「情緒」にそれなりに応じて、関係が破れかけたところを繕ってきた。そうやって小さな変更に応じていかないと、むしろドラスティックに二国間の関係が崩れて、ある種の「革命」が起きてしまうかもしれないという判断があったのです。しかし、そうした外交的努力は通用せず、「正しい歴史」という御旗の下、韓国が「革命」を仕掛けてきたのが近年の動きです。