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 しかし、談話を何度出しても、「本当のおわび」が繰り返し要求されてきたのが現実です。

 慰安婦問題は象徴的です。この問題は、1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」したはずでした。

2017年の「光復節」記念式典で万歳する文在寅大統領 ©共同通信社

「何を合意してもムダだ」という不信感

 しかし、1990年代に入って当事者がカミングアウトすると、民主化後の韓国政府もそれに呼応したため、一気に外交問題になりました。日本政府は河野談話を発表し、アジア女性基金も設立することになります。同基金は、形式上は民間の基金とされ、「償い金」には募金が充てられましたが、その医療事業などの運営には国庫が相当投入されていて、事実上、セミ・オフィシャルな試みでした。慰安婦の方々へは、次のような文面のおわびの手紙が、歴代総理の名前で一人ひとりに渡されています。これが、「紛争下の女性の普遍的な人権問題」に対する日本政府の公式見解として何度も確認されたベースラインです。

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〈いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げます。我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、いわれなき暴力など女性の名誉と尊厳に関する諸問題にも積極的に取り組んでいかなければならないと考えております。〉

ホワイト国除外の閣議決定後に記者会見する世耕経産相 ©共同通信社

 そして、「3度目の正直」として臨んだのが、2015年12月の日韓合意でした。この際も安倍首相は改めて「心からおわびと反省の気持ちを表明」した上で、今度は国庫から100パーセント支出し、「和解・癒やし」に充当しています。その合意が、文政権によって一方的に反故にされたのです。

 この経緯を考えると、私はさすがにこれ以上、日本がおわびすることは政治的にありえないと思います。約束が破られ、「韓国とは何を合意してもムダだ」という不信感が国民の間で広がっている中では、どの政権も動きようがありません。それに、「約束は守られる」という信頼が失われているのに、新たに外交協議をできるはずがありません。