韓国を敵にしてはいけない
外務省が毎年発行している外交青書では、2017年には韓国を「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」と位置づけていましたが、2018年には「日韓間には困難な問題も存在するが、これらを適切にマネージしつつ、日韓関係を未来志向で前に進めていくことが重要」と実務的な課題だけを列記するようになり、2019年には韓国に関する言及がほとんどネガティブな表現になっています。確実に関係は遠ざかっています。
ここで考えるべきは、日本にとって韓国とはどんな存在なのか、さらには韓国だけでなく朝鮮半島にはどんな「利害=関心」「価値」がかかっているのか、ということです。この根本から再検討し、戦略を練り直す必要があります。以下の3つをどう位置づけるかが鍵でしょう。
1つ目は、隣国であるということ。島国であり、海洋勢力でもある日本にとって、半島に位置する韓国(や北朝鮮)は、大陸勢力との間で地政学的な重要性を帯びています。
2つ目は、過去といっても植民地期だけではなく、「歴史を通じて交流と協力を維持してきた」(1998年の日韓パートナーシップ宣言)という事実です。
3つ目は、ともにアメリカの同盟国で、北朝鮮という共通の脅威を抱えていることです。
しかし、1つ目の隣国という地理的な関係こそ変わりませんが、これまで見てきたように、2つ目の歴史の中で対立の側面だけがクローズアップされます。3つ目の安全保障の側面でも、レーダー照射事件のような出来事がありました。韓国は朝鮮半島における「新しい平和体制」の構築を模索する中で、旧体制に固執する日本が足を引っ張っているとも認識しています。2つの国の間には、過去そのものよりも将来のビジョンをめぐって大きな齟齬が生じています。
特異な両国の関係とはいえ、日本が韓国と向き合う必要があるのは言うまでもありません。ただ、これからは、全く新しい関係を模索していく必要があります。
もし二国間の関係を人間関係に例えるなら、これから韓国とは「ビジネスパートナー」として付き合うくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
これまでは、いわば「友人」でした。経済や文化交流の側面でいえば「親友」だったかもしれません。その仲が悪くなったからといっても、「敵」にしてはいけません。
「敵/味方」の二分法から抜け出して、お互いに利益になるところは協力し合い、そうでなければクールに割り切る関係になればいい。ビジネスというのは、経済的な部分だけでなく、“粛々と事を一緒に為す”という意味でのビジネスです。
日韓はお互いに期待しすぎています。見た目も似ているから、きっと分かり合えるはずだと思ってしまう。韓国は「似て非なる外国」であることを肝に銘じるべきです。まず、「友人」であることを諦めることから、新たな日韓関係が築けるのではないでしょうか。
浅羽祐樹(あさば・ゆうき)
1976年大阪府生まれ。同志社大学グローバル地域文化学部教授。北韓大学院大学招聘教授。著書(共著)に『知りたくなる韓国』『戦後日韓関係史』など。ツイッターアカウントは@YukiAsaba