オタク沼にはまっていくOLを演じる桜井ユキさんや、“コミュ障”の地下アイドルを演じる白石聖さんなど、今後のドラマ界・映画界を担うであろう出演者が勢揃いしているのも『だから私は推しました』(NHK)の見どころの一つだ。それでは脚本を執筆した森下佳子さんは、彼女たちの姿をどう見ているのか。劇中に登場する地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」プロデュースの“裏側”とあわせて聞いた。
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――主人公の遠藤愛を演じる桜井ユキさんとは、何か言葉を交わされましたか?
森下 顔合わせのときに初めて挨拶をして、その後ご飯を食べたりしましたが、役柄についての詰めた話はそんなにしなかったですね。
「全員返り討ちにあったみたいですよ(笑)」
――お会いされたときはどんな印象だったんでしょうか?
森下 桜井ユキちゃんはすごくお酒が強いんです(笑)。私が一緒にご飯を食べたときは、翌日が撮影だったのでそんなに飲んでなかったんですけど、それでも日本酒を飲んでいて。やっぱりご飯のときに日本酒飲む人って結構お酒好きな人だから、あ、これは強いんだなと。それで後日、翌日が休みのときにみんなで飲んだらしいんですが、全員返り討ちにあったみたいですよ(笑)。
――桜井さんが1人だけ生き残った(笑)。
森下 彼女はずっと役者になりたいという気持ちがあったらしいのですが、デビューは24歳と遅かったんです。その間、色々と思うところとか、考えるところがあったんだと思います。だからいざやるぞ、となったらすごく肝が据わっているんじゃないですかね。座長としても素晴らしいと聞いています。いつも明るくて、現場を盛り上げてくれるムードメーカーだそうです。
桜井ユキさんの「前日が見える芝居」
――ドラマの中では友達とのチクッとくる会話や上司との何気ないやり取りなど、本当に自然に演じられていますよね。
森下 そうそう。うまいですよね、表情の作り方とかも。なんというか、どこから考えてその芝居になっているんだろうって思います。すごくナチュラルなんだけど、その芝居はいったいどこからどう来ているのかが、外側からはわからない。昔、菅野美穂さんが出てきたときもそんな風に感じたことがあるんですが、彼女はこう見えていることを意識しているのかな、いないのかな、みたいな。桜井さんが演じてくれることによって、愛ちゃんに血肉が付く感じがします。
――登場人物が生きた人間になる?
森下 そうですね。倉本聰さんのエッセイで、「前日が見える芝居」という表現があるんです。その登場人物の前日というのは、台本にはほとんど書かれていないんですが、なんとなくその設定が感じられたりとか、見えたりする、それがいい芝居なんだ、と。桜井さんのお芝居には、そういうものを感じさせる力があります。この人が前日も生きていて、このシーンだけ切り取ってやっているわけじゃないんだよ、というものが。