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特集2019年上半期の「忘れられない言葉」

2019/08/16

「生きています。生きている実感があります」

 小渕は「一日一生涯」「生きている」といった言葉をよく口にした。たとえば、国会への出席のほか、スケジュールに追われるなか、記者から「きょうは国会後も忙しい日程ですが」と訊かれたときには、「生きています。生きている実感があります。一生涯は時間が決まっていますから、どうせなら忙しいほうがいい」と答えている(※3)。1999年6月24日、翌日の62歳の誕生日を前に、記者から「明日から始まる1年間をどう過ごしたいですか」と問われたときも、「まあ……生きてることだな」とだけ述べた(※4)。それから1年も経たないうちに小渕が病に倒れ、2000年5月14日に亡くなることを思えば、この言葉に重みを感じずにはいられない。彼としてみれば、首相の職務に日々、命懸けで取り組んでいたのだろう。ジョークやパフォーマンスが滑って国民にいくら嘲笑されようとも、小渕の発言には、何事も必死にやらなければならないという人生哲学が込められていたのだと、いまさらながら気づかされる。

築地中央卸売市場を視察

パーソナリティをセールスポイントにしない安倍首相

 ひるがえって、安倍首相にそうした人生哲学はあるのだろうか。思えば、安倍首相が自分のパーソナリティを前面に押し出したところを、私は見たことがない。第1次内閣が倒れたあと、その一因とされた難病も克服して、再び首相に返り咲くまでには、おそらく人知れず努力や苦労も重ねてきたはずだが、それをセールスポイントとしたこともほとんどないはずだ(せいぜい再チャレンジできる社会づくりを訴えて政権に復帰したときぐらいではないか)。

©JMPA

 安倍首相の口にするジョークが不自然に思えてしまうのは、人柄を見せないところにも一因があるのではないか。もっとも、政権復帰からすでに6年8ヵ月が経ち、長期政権を維持している以上、いまさらわざわざ人柄をアピールする必要もないのだろう。では、世の多数派であるはずの安倍首相を支持する人たちは、彼の人柄ではなく、純粋にその政策に共鳴して支持しているのだろうか。それもちょっと違う気がするのだが……。

※1 『読売新聞』1999年12月2日付朝刊
※2 『朝日新聞』1999年9月23日付朝刊
※3 『朝日新聞』1998年12月5日付朝刊
※4 『朝日新聞』1999年6月25日付朝刊

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