「生きています。生きている実感があります」
小渕は「一日一生涯」「生きている」といった言葉をよく口にした。たとえば、国会への出席のほか、スケジュールに追われるなか、記者から「きょうは国会後も忙しい日程ですが」と訊かれたときには、「生きています。生きている実感があります。一生涯は時間が決まっていますから、どうせなら忙しいほうがいい」と答えている(※3)。1999年6月24日、翌日の62歳の誕生日を前に、記者から「明日から始まる1年間をどう過ごしたいですか」と問われたときも、「まあ……生きてることだな」とだけ述べた(※4)。それから1年も経たないうちに小渕が病に倒れ、2000年5月14日に亡くなることを思えば、この言葉に重みを感じずにはいられない。彼としてみれば、首相の職務に日々、命懸けで取り組んでいたのだろう。ジョークやパフォーマンスが滑って国民にいくら嘲笑されようとも
パーソナリティをセールスポイントにしない安倍首相
ひるがえって、安倍首相にそうした人生哲学はあるのだろうか。思えば、安倍首相が自分のパーソナリティを前面に押し出したとこ
安倍首相の口にするジョークが不自然に思えてしまうのは、人柄を見せないところにも一因があるのではないか。もっとも、政権復帰からすでに6年8ヵ月が経ち、長期政権を維持している以上、いまさらわざわざ人柄をアピールする必要もないのだろう。では、世の多数派であるはずの安倍首相を支持する人たちは、彼の人柄ではなく、純粋にその政策に共鳴して支持しているのだろうか。それもちょっと違う気がするのだが……。
※1 『読売新聞』1999年12月2日付朝刊
※2 『朝日新聞』1999年9月23日付朝刊
※3 『朝日新聞』1998年12月5日付朝刊
※4 『朝日新聞』1999年6月25日付朝刊