「その強い御心を御自身のお姿でお示しになりつつ」
皇太子徳仁親王は5月1日、天皇に即位し、平成から令和となった。剣璽等承継の儀の後、即位後朝見の儀に臨んだ新天皇は、初めての「おことば」を発した。今回取りあげたのは、そのなかで示された言葉である。
この即位後朝見の儀の「おことば」の構成は、平成の時のそれを踏襲していた。まず新天皇は、日本国憲法(今回はそれに加えて皇室典範特例法)の規定によって皇位を継承したことを宣言する。戦前の昭和天皇の時のように、皇祖皇宗、万世一系の天皇という概念はここになく、自身の天皇としての地位はあくまで日本国憲法に基づくこと(つまりは国民の総意に基づくこと)が強調されている。象徴天皇制における即位のあり方が、この最初の文言に集約されていると言えるだろう。そして、「この身に負った重責を思うと粛然たる思い」があることを述べ、天皇となる決意を示した。
上皇の「おことば」への新天皇からのアンサー
その後、「おことば」は前天皇の足跡を述べる。そこで、平成の天皇(上皇)は「世界の平和と国民の幸せを願われ」てきたと強調するのは、前日に行われた退位礼正殿の儀における上皇の「おことば」への新天皇からのアンサーのようにも思える。上皇は前日、「これまでの天皇としての務めを、国民への深い信頼と敬愛をもって行い得たことは、幸せなことでした」と、国民への感謝の念を述べていた。この短い「おことば」のなかに、「国民」という単語が3度も出ている。そして、令和の時代が「平和で実り多くある」ことを願って、「おことば」を締めくくった。
いわゆる「平成流」と呼ばれる象徴天皇制のあゆみが、国民を意識して被災地訪問を行い、平和への想いを持って慰霊の旅を行っていたことなのはよく知られている。新天皇は前日の上皇の「おことば」に対して、自身の「おことば」でやはり「国民」・「平和」という概念を用い、それに返答したのである。