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「腸閉塞を起こす原因って?」クイズ形式だった告知

 私に限らず、自分のがんを予期している人はいないはず。誰もが医者からのがん宣告は青天の霹靂で驚天動地で、度肝を抜かれまくることになる。

「どんなに時間をかけて説明しても、患者さんやご家族が理解してくれるのはその半分未満だと思うようにしています」

 先生の言葉通り、この原稿を書くために告知の時に回していた音声データを聞き直したが、まったく覚えていない事実がいくつもあって驚愕した。それだけ、とんでもなく動揺していたのだ。

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告知の際に説明をしてもらった紙。次から次に判明する真実に、心が折れそうになった。今見返しても胸が苦しくなる。

 そして板橋先生は「腸閉塞を起こす原因ってなにがあると思いますか」と、クイズ形式で私に伝えてくれていた。私も夫も、見事に正解できていなかったが。

「僕たちが個室でがんを宣告し、その部屋を一歩出た直後から患者さんの日常がはじまります。でもその“日常”が成り立たないと、治療もなにも始められないんです。医学は病を診ますが、病を有する人を看るのは看護学です。だから治療内容については医師である僕から説明できますが、病気を抱えるなかで日常生活を送るアドバイスについては、がん看護専門看護師の小湊さんにお願いしているんです」

 私が板橋先生を素敵だなと思うのは、こんなところだ。医師としての矜持と、同僚へのリスペクトがいつも溢れている。

 自分の告知の際にもがん看護専門看護師である小湊さんが同席していて、「すごく力になってくれる、なつみさんの味方です」と紹介してくれた。

いつの間にか“患者っぽさ全開”になっていた自分

 スケジュールと術式の関係でセカンドオピニオンを受けた別の病院で腫瘍は取ったし、妊孕性温存のためにまた別の病院で受精卵の凍結をした(抗がん剤の影響で妊娠できなくなってしまう可能性があったため、術後すぐ、生殖機能を温存したのです)。

 奇しくもこの半年の間で複数の大病院を見比べることになり、“社風”ならぬ“院風“があることも知った。それは検査のために採血してくれる検査技師や放射線技師など、いろんな人と話す中でなんとなく、感じるものだ。

 そしてこの取材のおかげで板橋先生や小湊さんの心地いいコミュニケーションの秘密が少しわかったのだが、がん医療にかかわるお2人は、心理士の勉強をしているのだという。

がんのステージを告知される直前。写真では笑顔だが、気持ち悪くなるほど緊張していた。

 特に12年ほど前からは精神腫瘍学を学ぶ「PEACEプロジェクト」なるものが立ち上がり、“がん”にかかわる医療者の全員が、この研修を受けているんだとか。

 かけてもらった言葉でハッとしたことはいくつもあるが、横っ面をひっぱたかれたような気持ちになったのは、板橋先生からのこの一言だった。

「いつも手袋してるの、普通じゃないよね」