「私のような人間が当選するのは、あまり好ましい事ではないと思っている。いわゆる潰すとか、スクラップする人間。でも多くの方が、NHKの問題に関心を持たれた。私が一旦NHKを潰すことによって、新しいものを作っていく事を国民の多くが望まれたのだと思っています」(立花孝志・2019年8月2日 日本外国特派員協会・記者会見

国政政党として「NHKをぶっ壊す!」

 2019年7月の参院選で「NHKから国民を守る党」(N国党)は1議席を獲得。地方議会にはすでに28議席を当選させていたN国党は、政党要件も満たし晴れて国政政党となった。その後、元日本維新の会の丸山穂高衆議院議員が入党し、旧みんなの党代表の渡辺喜美参議院議員とは統一会派を組むなど、「NHKをぶっ壊す!」べくさらに党勢を拡大させている。

 また、N国党・立花孝志党首は、マスコミ・芸能人への攻撃も始め、「ぶっ壊す!」の対象はNHK以外にも拡大の様相を呈している。

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初登院した立花孝志参議院議員 ©AFLO

「泡沫候補」としても規格外だった

「5年前は、選挙に勝ちたいというよこしまな気持ちがあった」(立花孝志・2019年8月2日 日本外国特派員協会・記者会見)

 選挙において、組織の応援がなく、当選の見込みのない候補者のことを、泡のように消え去る「泡沫(ほうまつ)候補」と呼ぶ。代表的な泡沫候補としては、スマイル党マック赤坂氏がいた(2019年4月に当選し、現在は東京都港区議会議員)。

 私は2013年に公開したドキュメンタリー、『映画「立候補」』の制作過程において、マック赤坂氏を中心に多くの泡沫候補を取材した。その経験から言っても、N国党・立花党首は規格外の「泡沫候補」だった。

©ワードアンドセンテンス合同会社

 私が定義する普通の「泡沫候補」とは、『政治に不満があり、投票先が見当たらず、自分が立候補できることに気づいた人』だ。泡沫候補は、自分の政治に対する思いに純粋であるがゆえに立候補した人たちなので、すべての政治家を敵視し、仲間を作れない。もし仲間が作れる程度の思いなら、既成政党に入るか投票するかで終わる。

あるのは「政治への不満」ではなく「NHKへの不満」だけ

 しかし、立花氏は「政治への不満」ではなく、「NHKへの不満」から立候補した。それは「NHKから国民を守る党」という政党名からも一目瞭然だ。この政党名から、NHK以外の事をしてくれる党だと思う人はおそらくいないだろう。彼は「政治への不満」がないからこそ、細かい政治信条は無視して政治家を「数」として捉え、「NHKをぶっ壊す!」ことに向けて仲間を作ることができた。

 細かい政治信条を気にしないなら、懇意にしている政治家への投票でも良い気がする。しかし、彼はたびたび間接民主主義の限界を訴えている。既存の政治家に「NHKへの不満」を託しても、その不満は解消されなかったという、立花氏なりの「政治への絶望」が根底にあるのだと思う。実際、2012年に立花氏はマニフェスト不履行で野田元首相を裁判に訴えている(1審・2審ともに棄却)。

私は直接民主主義がベストとは思わないが、ベターだと思っている」(立花孝志・2019年8月2日 日本外国特派員協会・記者会見)