『ゴロウ・デラックス』は終了したが、まだまだ会って話してみたい作家さんはたくさんいる——。稲垣さんの要望に応え、『週刊文春WOMAN』2019夏号より対談連載企画が始動! 記念すべき初回のゲストには、新本屋大賞作家の瀬尾まいこさんをお招きしました。
◆ ◆ ◆
撮影で「笑ってください」って…
稲垣 撮影って、緊張しますよね。何をしていればいいのか分からなくて。
瀬尾 そうなんです! 本屋大賞を取ってから、写真を撮られる機会が増えたんですが、苦手ですね。カメラマンさんに「笑ってください」と言われると、緊張します。
稲垣 分かります、分かります。しかも誰かと一緒の撮影って、カメラマンさんに「楽しく喋っている感じでお願いします」と言われることが多いじゃないですか。初対面同士だと、困りますよね。ずうっと長くいる者同士でも難しいのに。僕の場合でいうと、草彅(剛)さんや香取(慎吾)くんと一緒の撮影で、「楽しそうに喋ってください」と言われると妙に気恥ずかしかったりするんですよ。でも、この間カメラマンさんに言われてハッとしたのは、「仲がいい人同士が普段のテンションで喋ると、そんなに笑顔が出ないんです」って。
瀬尾 なるほど(笑)。
稲垣 僕も、妙に納得しました(笑)。
「もしも自分が演じるんだったら?」愛情を注ぐ側の目線で
稲垣 僕は3月まで『ゴロウ・デラックス』という、本がテーマのトーク番組をやらせていただいたんですが、瀬尾さんは番組が続いていたら真っ先にお呼びしたかった方です。瀬尾さんの作品を読むのは本屋大賞を取られた『そして、バトンは渡された』が初めてなんですが、人に勧めたくなりました。
瀬尾 ほんとですか!?
稲垣 この作品の素晴らしさは、みなさんもう知ってると思うんですけど……。
瀬尾 いやいや、誰も知らないです。
稲垣 いやいやいや(笑)。
瀬尾 何人かは知っている、くらいです(笑)。
稲垣 父親が3人いて母親も2人いる、家族の形をころころ変えながら育ってきた17歳の森宮優子ちゃんが主人公ですね。でも、そのことを本人は不幸だとはぜんぜん思っていない。もちろん、最初は優子ちゃんの心情に興味を持って読み進めていったんですけど、僕は小説を読む時に、「もしも自分が演じるんだったら?」と考えてしまう癖があるんですよ。読んでいるうちにどんどん、優子ちゃんの血は繋がっていない今のお父さん、森宮さんの心情に興味が湧いてきたんですよね。
瀬尾 私も最初は優子の側から、血は繋がっていなくても愛情を注がれることは幸せだなぁ、と思いながら書いていたんです。でも、書いているうちにだんだんと、愛情を注ぐ親たちの目線に入っていく感覚があったんですよ。愛情を注ぐ対象があるって、幸せなことだなぁと。
稲垣 そう感じましたね。37歳の森宮さんが、血の繋がっていない17歳の優子ちゃんと2人で暮らしているのって、見る人によってはかなり特殊な関係じゃないですか。その裏には、小説には書かれていないけれども過酷なドラマがあったんじゃないかな、とか勝手に想像してしまいました。
瀬尾 森宮に関しては、自分の両親にわりと厳格に育てられていて、分かりやすいかたちの愛情は受けてこなかった人なんじゃないかな、と思います。だからこそ自分が親になった時は、血は繋がっていないけれども娘になった優子に対して、親の愛情をまっすぐに注いでみたいと思ったんだろうな、と。
稲垣 そうか。自分が親の愛情をあまり受けてこなかったからこそ、親になった時は、逆に。