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2019/09/03

日本のインテリジェンスに回ってきた“ツケ”

 一方、情報組織としての内調は、先述の内閣情報官設置以降、同年の2001年に情報収集衛星導入準備室が発展的解消して内閣衛星情報センターへ。08年に外国情報機関から日本の重要情報や職員を保護するカウンターインテリジェンス・センターの設置、13年に国家安全保障会議の発足、13年には国際テロ情報集約室を新設するなど、一見内調の組織、権限の拡充が図られているかのようであるが、何のことはない。インテリジェンス機能を度外視した、付焼刃的な組織の細分化と縮小再生産が繰り返されてきているだけで、その新たなセクションも出向組や兼務辞令で辛うじて人員の帳尻を埋め合わせているだけに過ぎない。

 冷戦崩壊による戦後の国際社会秩序が大きく揺らぐ中、「平和の配当」に安堵し、うわべだけの冷戦型思考から脱却できず、「ポスト冷戦」から「冷戦後」への安保戦略を構想出来ないまま、日本のインテリジェンスは、ヒトの集中と組織の拡散という、パラドックスに陥ってしまった。情報も水や空気、更に治安や安全と同様に、「ただ」だと思ってきたツケが今回ってきているのである。

冷戦終結の象徴「ベルリンの壁崩壊」 ©iStock.com

 防衛省・自衛隊にしろ、外務省にしろ、押しなべて「情報コミュニティ」を構成する各情報機関の現状を見ていると、“情報マン”たちはスペシャリストとしてではなく、ジェネラリストとして育成されているために、様々な分野を比較的短い期間で次々と遍歴させられており、今ではファクト・ファインディング重視の伝統も廃れてしまった。しかも、総合判断を必要とするマネジメント能力にも欠けるとなると、情報集積や人脈、ノウハウの蓄積で実務を取り仕切るなどはとても覚束ない。

「生きた情報」に必要な「記憶」というファクター

 インテリジェンスが追求する「情報」に関して、筆者はこれまで(1)クオリティ、即ちインフォメーションではなく、質的・密度的意味での本来の情報、(2)スピード、(3)オリジナリティ、(4)メッセージ――の4つのファクターを重視してきたが、「ポピュリズム政治」が招いた情報バブルやフェイク・ニュースを一蹴するために新たに「記憶」というファクターを付け加えたいと考えている。情報協力者・提供者〈メディアにおける取材相手〉がその時どんな表情だったのか、「情報」にも表情がある。これが、冒頭に紹介した金田氏が言う、インテリジェンスの王道であるヒューミント(人的情報)に通じる「生きた情報」であり、情報マンのスキルとメンタリティである。

 当然、「国家の情報」を担う「情報コミュニティ」は、内閣の危機管理のための単なるシステムに終わるのではなく、情報ネットワークから情報組織へと発展的成長を遂げ、更にはその情報資源を反映、活用した安全保障政策の立案、遂行が可能な組織作りがもとめられる。

首相官邸で会見を行う安倍首相 ©文藝春秋

 内調も、霞が関の官僚組織と同様に、シンクタンクとしてその一役を担うことが出来れば、活路を見出せるかもしれない。

「ポスト安倍」後は、この情報組織の再構築が、独立国家として避けられない緊喫の政策課題になるだろう。