高校生の娘が研究論文の第一著者に
この中でもっとも人々の怒りを買ったのが娘の不正入学疑惑だ。これは、娘が高校時代にある医科学研究にインターンとして2週間ほど参加しただけにもかかわらず、その研究論文の第一著者として名を連ねたというもの。こうした経歴により名門大学を無試験で入学したとされている。また、医学大学院在学中、2度留年したにもかかわらず、奨学金を総額1200万ウォン(約106万円)を受け取っていたことが発覚。いずれも、曺前秘書官が自身の地位を利用したのではないかという疑いが持たれている。
過去、保守派に向けた曺前秘書官の発言も掘り起こされた。以前、曺前秘書官が投稿し、多くの共感を得た「チョン・ユラ(朴槿恵前大統領の友人の崔順実氏の娘)の『能力がなければ親を恨め。カネも実力だ』はまさに朴槿恵政権の哲学だった」というツイートには、「まったく同じことをやっている」と言う声が上がり、「疑惑が事実ならこれこそダブルスタンダード」と別の中道系記者は言う。
「今回の疑惑には20代からの反発が強い。また、その父母世代の間では怒りと同時に『曺国みたいな父親でなくて申し訳ない』と、子供のために何もできない無力感も広がった。これだけ大きなイシューになっていても、与党はただただ火消しに必死で、曺前秘書官をかばい続けている。ここに大統領の意志があることは明らかです。
実は、22日の日本との『軍事情報包括保護協定』(GSOMIA)破棄は、曺前秘書官の疑惑から世論の目をそらす狙いがあったともいわれました。しかし、結局疑惑は収まりきらなかった。23日には、投資したファンドなどを社会に寄付すると発表し、25日には『安易な父親だった』と自ら謝罪はしましたが、手続き上違法は行っていない、不正ではないと強く主張していて、候補を辞退する動きは見えません」
文大統領はなぜ曺前秘書官をかばい続けるのか?
この曺前秘書官疑惑により文大統領の支持率は44%と先週から1ポイント下落し、「曺前秘書官は法相に不適切」とした人は57%にのぼった(8月30日、世論調査会社「韓国ギャラップ」)。曺前秘書官を法相に任命すれば、中道派や支持基盤層すら失いかねないとも言われるが、なぜ文大統領は曺前秘書官にこだわるのか。
2人の出会いは1冊の本だったと別の記者が言う。
「2010年に出版された本で、この本の内容に感銘を受けた文大統領が直筆の手紙を送ったことから知り合ったといわれます。以降、曺前秘書官は文大統領のブックコンサート(ざっくばらんとした討論会)の常連になり、縁を深めていった」
文大統領と曺前秘書官は共に高校時代までを釜山で過ごしているが、釜山は文大統領が弁護士生活を送り、国会議員にもなった思い出深い地。釜山生まれの曺前秘書官に親近感をもったのではないかといわれている。
李明博元大統領時代に出版された、『進歩執権プラン』というタイトルのこの本は進歩系メディア代表との対談形式で綴られていて、序文にはこんな一節がある。
「私はこの本を20代30代の青年たちにたくさん読んでほしい。現在、彼らは現実への疲労感と未来への不安に苦しんでいる。大学の入学金1000万ウォン(約87万円)、青年失業者100万名という統計は苦痛の根源が何であるかを示している。
このような環境の中で、青年たちは、険しい世の中で生き残ろうとその方法を探り、躍進することで自分だけのスペック(学歴、成績、TOEICの点数など就活生の外的条件)を積む以外にないという哲学を持つようになったようだ。しかし、法と制度の変化なしに個人の奮闘だけで問題が解決する確率は低い」
文大統領はこんな曺前秘書官しか司法改革を成し遂げられる人はいないと惚れ込んでいたといわれる。「大統領になってからも何か気になることがあれば休日でも夜中でも構わず曺前秘書官に電話していたといわれ、絶大な信頼を寄せていた」と前出の記者は話す。