「文在寅大統領の分身」、「進歩派のアイコン」――。
こんな異名を持つ文大統領の側近中の側近、曺国(チョグク)・前青瓦台(大統領府)民情首席秘書官を巡る疑惑に、8月27日、検察の捜査が入った。
韓国でソウル地方検察による捜査への見方は主に2つに割れている。単なるパフォーマンスと見る視点と、司法のトップになるやもしれない人物を徹底的に洗い直し、疑惑が事実として立証されれば法相になることを拒否する意図を見せたのではないかという視点。
そもそもの発端は8月9日。文大統領が内閣改造の目玉として曺国前秘書官を法相候補者として指名したことから始まった。
中道系の韓国紙記者が言う。
「文大統領は、自身が進めている積弊清算の一環であり、悲願とする司法改革を託すのは曺前秘書官しかいないと話していました。法相の次は来年4月の総選挙で曺前秘書官を国会議員にし、次期大統領候補へという青写真を描いているとも囁かれていたのですが」
順風満帆だった前秘書官から匂い立つ疑惑
曺前秘書官は、1965年、文大統領と同郷の慶尚南道の釜山生まれ。韓国の大学最高峰、ソウル大学法学部を卒業後、同大学院で修士を、米カリフォルニア大学院で博士号を取得した。その後、弱冠27歳の時に蔚山大学教授に就任し、当時、最年少での教授誕生と話題をさらったという。2002年にはソウル大学法学部教授となった。専門は刑事法だ。進歩派の間では、歯切れのよい発言で保守派を論破し、「長身で甘いマスクも相まって人気を集めた」という(同前記者)。
民情首席秘書官には2017年5月に文大統領が当選した翌日に任命されている。ちなみに民情首席秘書官は、文大統領も盧武鉉元大統領時代に務めたポストで、政府高官の監視や司法機関を管轄する首席秘書官中の“花”。大統領にもっとも近いポストともいわれる。検察出身者が多い中、大学教授出身者は異例の抜擢だった。
順風満帆かに見えたが、思わぬところで躓(つまづ)いた。
韓国では通常、大統領に指名された大臣候補者は国会での人事聴聞会を経て、正式に任命される。ところが、その前のメディアによる“身体検査”で次々と疑惑が吹き出した。疑惑は大きく3つ。ファンドへの不正投資疑惑、子女の大学不正入学疑惑、そして、曺前秘書官一家所有の学校法人を巡る偽装訴訟疑惑だ。