本誌の読者にはライトノベルは縁の遠いものだろう。だが賀東招二の『コップクラフト』は、海外ミステリや海外刑事ドラマのファンは見逃すべきでない作品なのです。
舞台はアメリカ沖合の都市サンテレサ。日系人刑事ケイ・マトバが囮(おとり)捜査を行なう場面で幕を開ける。だが事態は急変。相棒は殺害され、違法に取引されていた“もの”も殺人犯に持ち去られてしまう……
堂々たる海外ハードボイルド風の幕開けだが、変わった点が二つ。取引されていたのは“妖精”であり、犯人が“魔術師”であることだ。実は15年前、サンテレサの沖合に突如、魔法や妖精が実在する異世界に通じるゲートが出現した。街には異世界からの移民があふれ、異文化の衝突が頻発。妖精が狙われるのは、その体から麻薬が生成されるためだった。今回の事件で消えたのは高位の妖精。救出のために異世界から騎士が派遣され、マトバは彼女(美少女なのだ)とコンビを組んで事件を追うことになる。
《美少女騎士》と聞くとアレかもしれないが、ミステリ史上にはロボット刑事も宇宙人刑事もいた。『48時間』『リーサル・ウェポン』など相棒もの映画は枚挙に暇がない。そうした先例が踏まえられている。脇役の刑事や小悪党も印象的だし、事件の背後には巨大な陰謀も警察の腐敗も仕込まれている。大事なツボをきっちり押さえているのだ。
シリーズは現在まで6巻。コミカルな短編もあれば、現代ミステリに比肩するヘヴィな主題の傑作長編(第3巻)も。“神絵師”村田蓮爾による美麗な表紙に二の足を踏むおじさまもおられるかもしれませんが、大丈夫、堂々たるハードボイルド風の態度で書店のレジに行けばよいのです。さあいざ!(紺)