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 原作をどこまで脚色していいかは原作者の許す限りにおいてであるが、本作はかなりそれを行っている。言い出せばきりがないが、ドラマでは勝負を賭けてハワイロケを敢行するが、実際は原作にあるように頻繁に海外ロケをおこなっているし、ドラマの肝となる「SMぽいの好き」は黒木香の初めてのAV出演作として描かれるが、実際はそれ以前に他のメーカーのものに出演している。

全裸監督 村西とおる伝

 主要な人物についても同様で、敵役・ポセイドン企画の池沢のモデルに相当する人物はいない。そのものはいないが、原作にも登場する「裸の巨人」(注3)・山崎紀雄をモチーフにしているだろう。

 山崎紀雄はシャガールやルオーなどの絵画を愛し、オフィスでピアノを弾くなどした芸術肌の人物で、美少女もののAVメーカー・宇宙企画やエロ本「デラべっぴん」の版元である英知出版の経営者であった。ドラマを見た方は、ちりばめられた山崎紀雄に由来するモチーフにピンとくるに違いない。

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Netflix版「全裸監督」は「実録もの」だ

 いわばドラマ「全裸監督」は「実録もの」である。“実録”と言われると事実に沿ったものだと思おうか。しかし「実録もの」は言うほど事実に沿いはしない。

 たとえば東映実録路線のひとつ「北陸代理戦争」は北陸の帝王と呼ばれたヤクザの半生を描いたものだが、伊藤彰彦『映画の奈落』(国書刊行会・2014年)が綿密に検証しているように時系列を壊して、順番を入れ替えながら作劇していったものである。すなわち事実を再構築しながら創作する手法ともいえる。

 ドラマ「全裸監督」は80年代という時代そのものの「実録もの」であったろう。それはVHS・ベータ戦争という日本の家電メーカー同士の覇権争いがおこなわれるなど日本経済の絶頂の時代を背景に、裏街道をいくエロ事師たちが合法・非合法の境界線上をたくみに駆け抜けようとするピカレスクである。そして「」つきの「村西とおる」に、80年代という時代性を照射したのである。

村西とおる ©文藝春秋

 これがなぜ賛否両論を引き起こすのか。