昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

賛否両論の「全裸監督」原作ファンが見た、ドラマ化で失われたもの、立ち表れたもの

2019/09/05

 村西とおる。裏本の時代においては、SPAと呼ばれるユニクロやGAPさながらに、制作・印刷・流通・小売を一手におこない、アダルトビデオの時代になると、まだ撮影機材が軽量化される以前にもかかわらず、監督みずから大きなカメラを担いで出演。「ナイスですね」で知られる軽妙な喋りで「セックスという世界に、初めて笑いを持ち込んだ人類史上初の男となった」(注1)であった。

 いうなればエロメディアの変革者であった。そして逮捕を繰り返しながら帝王と呼ばれるまでに登りつめていった。しかし型破りな人間の常で、そこから反転、会社倒産で借金50億円を背負うまでに堕ちる。それでも挫けることなくパンツ一丁でカメラの前に立ち続けるのであった。

 こうした浮き沈みの記録を、村西とおるを追い続けた本橋信宏がまとめたのが『全裸監督』(太田出版・2016年)である。この8月、それを原作にした同名のドラマがNetflixで公開されるなり、賛否両論を巻き起こす。


舞台設定からして原作とは違う

「村西軍団が事務所を構える歌舞伎町のセット。あれはそのまま再現したというより、当時の新宿のいかがわしい場所を集約した感じになっています」と、ドラマ「全裸監督」の総監督・武正晴は雑誌のインタビューで述べている(注2)。

 ドラマでの「サファイア映像」のモデルとなる「クリスタル映像」は、実際は神楽坂の矢来町などに所在した。しかし作劇においては舞台を歌舞伎町にする。クリスタル映像が歌舞伎町の風俗店「クリスタル」に由来していることもあろうが、80年代という時代の特異性を現すためであったろう。

©iStock.com

 80年代、とりわけその前半というのは、ノーパン喫茶が一世を風靡し、写真週刊誌「FOCUS」が発行部数200万部を記録する、いわば狂乱とスキャンダルの時代である。しかもそれは滅びに向かう、退廃の色をおびた熱狂であった。ドラマはこの強烈な時代そのものを歌舞伎町という街で表現しているともいえよう。

 舞台を変えるばかりではない。ドラマは原作なり事実なりとだいぶ異なる。