「ようやくそういう時代になってきたんだな」
甲子園至上主義、マウンドで燃え尽きるエースの物語という従来的価値観に巨大な一石を投じた岩手での出来事について、ダルビッシュは言った。
「今までそういうことをやりたくても周りの目を気にしてできなかったのが日本の高校野球だったと思うので、今回、すごく良いことだなと思ったんです。ようやく日本でも選手の体のこと、将来のことを考えるという、そういう時代になってきたんだなと」
その口調からすでに彼の中では十分に考え、練られてきたことなのだろうという印象を受けた。
そして、「ようやく」という言葉に彼がこれまで続けてきた闘いを思わずにはいられなかった。つまり、ツイッターに綴られた言葉は、ひとつのニュースだけを見て、その場の感情で発せられたものではなく、自らの体験に基づいた、時間という重みも含んだものだということだ。
昔も今もダルビッシュは賛否の狭間で生きている
「日本はみんなが同じ意見でないとダメというか、議論を避ける文化だと思うので、自分としては議論を起こすきっかけになればいいなと思っているんです――」
この後、さらに続いていった彼の言葉を聞いて、ほとんど確信した。物議をかもす発言のバックボーンには異端の高校球児として苦悩した過去があること。
日本でもアメリカでも、昔も今もダルビッシュは賛否の狭間で生きているということ。
そして、やはり彼は甲子園を愛する、高校野球改革の中心人物なのだということを。
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ライターの鈴木氏の直撃に答えたダルビッシュ有の「高校野球への思い」とその背景については発売中の「文藝春秋」10月号「ダルビッシュ有『僕は日本へ提言を続ける』」に詳しく書かれています。併せてお読みください。
【文藝春秋 目次】<総力特集>日韓断絶 藤原正彦 佐藤 優/<特別寄稿>村上春樹 「至るところにある妄想」/<特集>がん医療の新常識
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2019年9月10日 発売
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