橘家圓喬 「餞別だ、持っていきな」
(「第14回 新世界」より)
このドラマを走るもうひとつのストーリーライン、それがビートたけし演じる古今亭志ん生の落語家としての人生です。志ん生が最期まで師を圓喬だと言って憚らなかったのは有名な話ですが、この圓喬、歴史上でも最高レベルの名人だと伝わっています。
この圓喬をだれがやるのか。優しさと厳しさを併せ持つ松尾スズキさんはピッタリだったのではないでしょうか。だれに遠慮することもなく批判をし、高座から生活まで神経質に作り上げていく名人・圓喬。実際には目にしたことはないのですが、こういう人だったのかもなと思わず見入ってしまうほどでした。
で、この厳しい圓喬師匠、物語中では咳をコホコホするシーンがはさまれていましたが、1912年、実際に肺病で亡くなっています。そこまでは語られなかったものの、若き志ん生を小圓朝に預けて旅に出させる。肺病で苦しいなか、わざわざその弟子の見送りにかけつけるのである。これも「ホームでの別離」なのですが、落語家らしくベタっとしていない別れ際ですごいシーンでした。
「頼んだよ小圓朝さんよお! 大事な弟子を貸すんだからなあ! 一回り大きくして返してくれよなあ!」
あの圓喬が弟子のために頭を下げるのだ。
「フラがあんだよフラが! そいつぁ大化けすんだから! 立派に育てねえと私ゃ承知しねぇよ!」
そして、志ん生に小さな声でこうつぶやいて、高価なタバコ「敷島」を3箱渡す。
「餞別だ、持っていきな」
「泣くヤツがあるかい、ちゃんと勉強すんだよ、じゃあな」
浮草稼業は一期一会、なんにも考えていないように見えて、弟子のことをずっと考えていた圓喬師匠の最後のセリフが、ずっと心に残っています。