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ラザロ「You, too」 四三「ばっ!」

(「第12回 太陽がいっぱい」より)

 いよいよはじまったストックホルムオリンピック。日本からはたった二人の参加となった金栗四三は、コーチも病に倒れ、一緒に参加した三島弥彦も精神的に追い詰められてしまい、異国の地で完全にひとりぼっちになってしまいます。この孤独感が視聴者にも伝わってくるくらい緻密に作られているのですが、ここで四三は、マラソンのポルトガル代表ラザロという人物と仲良くなります。

 ラザロは貧しい家の出で、ポルトガルでは大工をしており、この大会では絶対に勝つんだと意気込んでいます。おなじような想いでこの大会に来ている人がいるんだと感じた四三は、言葉は通じなくても、競技を通して心が通じ合う喜びを知ります。このシーンはスポーツの素晴らしさも表現される本当に感動的なシーンです。

 そして、「通じ合った」と実感できるのが「笑う」シーンです。

 スタート直前に集中するラザロの靴ひもがほどけているのに気付いた四三はなんとか気づいてもらおうと必死に語りかけます。が、その四三の足袋のコハゼもはずれていたというほのぼのとしたシーン。

 四三「おい、おい、カーペンター」

 ラザロ「??」

 四三「靴紐、あー……マラソン、シューズ、ひも、ロープ?」

 ラザロ「Thank you……Mr.……」

 四三「マイネーム、イズ、ふぉーてぃーすりー」

 ラザロ「Forty-three? You,too」

 四三「ばっ!」

 ここで笑いあうんだよ! 生まれも育ちも肌の色も言葉も、まったく知らない人と通じ合うの! 

 このドラマでは、観衆に落語で語り理解してもらうという「通じ合うこと」=「笑う」というテーマが根底にあると思うのですが、それを象徴するシーンのひとつかもしれません。

 この後、ラザロは四三とも走り合うのですが、オリンピック史上初の死亡者になってしまいます。その哀しい最期を知らなかったゆえに、脇役がすごい存在感を残すのだということが印象づけられたシーンです。