1ページ目から読む
5/5ページ目
「スポーツをするに当って、勝利のみに熱中してはならない」
秀子はベルリンオリンピックから16年後、少女時代を振り返った文章のなかで次のように書いていた。
《ただ、かえりみて、私が心から叫びたいことは、ひとはスポーツをするに当って、決して勝利を目的とし、そのことにのみ熱中してはならないということである。
私の青春時代が、一つの良い見本である。(中略)
いや、私は、やっぱりスポーツも、もっと民主化されて欲しい。
「オリンピックに出場して、勝利すること!」
というスポーツに対する考え方から、
「オリンピックに参加しよう!」
と云う、スポーツ精神のおおらかさに変って行きたいと思う。
すべての人々が、心から楽しみ、若さをとりもどす健康のためのスポーツ――が、これからの理想でもあると考える》(※3)
彼女はまさにここに記された理想を追求するため、後半生を捧げた
※1 大根仁「中春スケッチブック~あるいはポップカルチャーレコメンドダイアリー~ 『いだてん』前畑秀子とヒトラーのこと」(『テレビブロス』2019年10月号)
※2 沢木耕太郎『オリンピア ナチスの森で』(集英社e文庫、2016年)
※3 杉野芳子ほか『娘の頃 女性いかに生きるべきか』(寶文館、1952年)
このほか、記事執筆にあたっては、橋本一夫『日本スポーツ放送史』(大修館書店、1992年)、兵藤秀子『前畑ガンバレ』(金の星社、1981年)および『勇気、涙、そして愛 前畑は二度がんばりました』(ごま書房、1990年)のほか、各