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いかりや長介は「笑い」に人生を賭けていた……伝説の放送作家が振り返る『8時だョ!全員集合』の時代

『放送作家の時間』(イースト・プレス)

2019/10/02
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 非公開のスタジオ撮りだから観客はいない。なのでドラマ形式にしたいという。『全員集合』のスタッフと初めて会った時、私はドラマ作者として紹介されたのを憶えている。私は加藤茶が視聴者を泣いて笑わす芝居を作りたいと思い、そんな役柄とストーリーにした記憶もある。結果は失敗した。脚本の失敗を棚に上げて言うと、加藤にそんな演技は無理だった。だからすぐにはレギュラー作者としてオヨビはかからなかった。

加藤茶氏 ©田中茂/文藝春秋

 ドリフにドラマは無理ということがわかって、生放送の回も少しは作り方を変えていったのではないか。そのせいか次第に高視聴率を取る人気番組になっていく。そうなればなるほど「作・構成」には多彩な力が必要になる。コントにも少しはストーリー性を持たせようという話になったのではないか。だから私にも42回目から声がかかったのだろう。

 私がレギュラーになって一番驚いたのは、長さんの恐ろしいほどの、いや実際に恐ろしい「笑い」に賭ける執念だった。

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 その執念に応えてプロデューサーは、TBSのリハーサル室を週2日丸ごと、つまり時間制限なく使えるように押さえ、そして生本番当日の朝早くから稽古できるように公開放送会場を押さえていた。

 そのスケジュールを具体的に言うと、次のようになる。

 まず私が加わったころの番組の全体構成を説明しよう。放送1時間のうち前半はドリフだけの長めのコント、CMがあって中ほどはゲストと一緒に体操をしたり歌を楽しんだりするコーナー、そしてまたCM後の後半はゲストがらみの複数の短いコントの3部に分かれていた。

いかりや長介氏 ©飯窪敏彦/文藝春秋

 リハーサル1日目は、前半コントの事前に担当作者とディレクターが相談しておいた内容を、黒板に書いて説明する。それでOKかどうかは長さんが決める。OKの場合はドリフのメンバーとスタッフ全員が、それぞれアイディアを出し合う。美術担当もいてコントにふさわしいセットについてアイディアを出す。それらを長さんは一つ一つ聞きながら意見を述べ、それに従って2日目のリハーサルまでに作者が書き直してくることになる。それがもっともスムースに進んだ場合。

 コントの内容そのものが長さんのお気に召さなかった場合は大変だ。ゼロから作り直すために長さんは横になり目をつむって考え込む。いつ出るかわからない結果が出るまでメンバー、スタッフは口を挟めるような雰囲気ではないので、何かをして時間を潰している。

 高視聴率番組になってから、ある新聞記者がリハーサル風景を取材に来た。さぞかし熱心に稽古をしていると思いきや、リーダーは眠りメンバーは遊んだりしているように見えたらしい。そこで呆れて「稽古はいつするんですか」と聞いた光景を私も見ている。観客を笑わせる「笑い」を作るには、こういうアソビ時間も大切だということもあとでわかった。

 さてやっと長さんがヨシ、コレデイコウと起き上がり、説明するのを担当作者が黒板に書きながら、時には自分の意見を挟んだりする。そんな時の長さんの決まり文句。

「あんたの言う通りにして客にウケなかったらどうする。困るのはオレたちなんだぜ」