今年の夏は耐えられないほどの暑さだったけど、ドラマの世界はなんて素晴らしかったんだ!『セミオトコ』の山田涼介を真似て、私もそう叫んでみたい。
石原さとみ『Heaven?~ご苦楽レストラン』の設定は、もろC級ドラマだ。しかし石原の地力が、C級ならではのチープな魅力を回を追うごとに引きだし、最後まで楽しめた。次は『アンナチュラル』級の作品を用意してね。
多部未華子の『これは経費で落ちません!』も典型的なB級ドラマだけど、そんな縛りがあっても多部ちゃんは手を抜かず、A級の芝居を見せてくれた。性的な匂いが稀薄な役者だからか、経理部の女性社員、伊藤沙莉や江口のりことの暑苦しくない友情が快い。
そしてそして、東京西地区を舞台に、三十歳前後の女性の心理をシリアス、かつ爽やかに描いた二本のドラマがクオリティの高さで毎回、満足させてくれた。
黒木華(はる)の『凪(なぎ)のお暇(いとま)』は立川のボロ・アパートが舞台だし、木南(きなみ)晴夏がヒロインの『セミオトコ』は、国分寺の古いけど雰囲気あるアパートの住民と事件を描く。これはたまたま偶然なのか、理由があるのか。
木南晴夏といえば、『勇者ヨシヒコ』シリーズの村娘、ムラサキの印象がやはり強い。ポップで個性的な笑いは誰も真似できない。
そして忘れてはいけない、筒井康隆“七瀬シリーズ”が原作の『家族八景』。原作にただよう“超能力者の哀しみ”を、クールかつ端整に表現した演技力と表情の素晴らしさといったら。
恋人もいないし、夢も高望みもない。自分をアピールしないから小声。そんな大川由香(木南晴夏)の前に、突然セミ王子(山田涼介)が現れる。
国分寺の古アパート“うつせみ荘”の地下で六年育ちながら、住人たちの声を耳にし、どんな顔と性格だろうと楽しみにしていたセミが、ついに羽化したとき由香に命を救われた。
セミの命は七日間。由香への感謝と、薄幸な表情の彼女を幸せにするため、セミは由香の理想の容姿をもつ青年として登場する。
彼の優しさは、人を明るくする。アパートの住人もセミオと呼んで、大川由香を略した“おかゆさん”との愛を温かく見守る。
セミオの愛で、おかゆさんの表情が日一日と明るく美しくなっていく。その表情と心の変化を肌理(きめ)細やかに演じていく木南晴夏。
でもセミオの命は、もう残り僅かだ。二人が楽しそうだから、同じアパートの隣人も切ない。そしてセミオの寿命は尽きた。しかし由香は淡々と日々を過す。そして六年後――。
目黒から立川へとお暇した凪も、高橋一生と中村倫也に翻弄されたが、自分のスタイルを見つけた。西東京には何かある。テレビ制作者も気づき始めたのか。
INFORMATION
『セミオトコ』
テレビ朝日系 放送終了
https://www.tv-asahi.co.jp/semio/