「永田町の常識は世間の非常識」とよく言われるが、関西電力経営幹部の常識もまた世間の非常識だった。だがこの非常識でさえ、彼ら流のリスクマネジメントだったのかもしれない。
八の字眉毛を盛んに上下させ
福井県高浜町の元助役・森山栄治氏(今年3月に死去)から、岩根茂樹社長、八木誠会長を含む関西電力の経営幹部20人が約3億2千万円相当を受領した問題で、10月2日の午後、岩根社長と八木会長が揃って会見、社内調査報告書を明らかにした。
常務執行役員と元副社長は、それぞれ1億円を超える金品を受領。岩根社長が「せっかくだから受け取った」と9月27日に述べていた金品は“菓子の下の金貨”。これだけでも驚くが、森山氏の恫喝を恐れ受領した、返却できなかった、各自が保管し返せる時に返す努力をしたと強調。死人に口なしとはこのことだ。
「不適切ですが、違法ではないという判断がありました」
社内報告書を取締役会に報告しなかった理由、受領した役員たちを減俸などの処分だけで済ませた理由を、八の字眉毛を盛んに上下させ、岩根社長はうつむきながらこう述べた。コンプライアンス意識の低さやガバナンスの欠如に批判が噴出し、自分たちの違法行為を隠蔽したように映るが、それこそが彼らのリスク管理だったのかもしれない。
その周知徹底ぶりは見事である
では、彼らが恐れたビジネスリスクとは何だったのか。
「相手の機嫌を損ねたら、会社の原子力事業がうまくいかなくなる。リスクを冒せない」(八木会長)
八木会長は森山氏の影響力について、機嫌を損ねると「高浜町や地域全体が反対に動いていくリスクがある」と類似の発言を繰り返し、岩根社長も「森山氏に反対されれば、原子力行政の推進がうまくいかない」と考えていたという。彼ら関電幹部にとって最大のビジネスリスクは“原子力事業がうまくいかなくなること”だったらしい。会見では、このリスクを軽減、回避するために彼らが行っていた管理方法が見えてきた。これが正当なリスクマネジメントだったなら、その周知徹底ぶりは見事である。