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警察発砲&マスク禁止法―― 混迷の香港デモを指揮する“謎の組織X”が存在する?

2019香港デモ 現地ルポ#4

2019/10/05

genre : ニュース, 国際

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警察をあざむく「高度な戦略」は誰が立てているのか

 事実、統括組織Xの存在を疑わせる要素は少なくない。中国の国慶節(建国記念日)にあたる10月1日には香港の全域で同時多発的にデモが起き、少なくとも6ヶ所については事前に場所と開始時間が示されていた。こちらからは、人数面で警察にまさるデモ隊があえて戦闘地域を分散させることで警察の疲弊を狙う的確な戦術が見て取れるが、誰がこの戦術を立案したのだろうか。

デモ鎮圧に投入される香港警察の人数は1万人程度とみられている。警察側の疲弊も限界だ。10月1日、油麻地付近で筆者撮影。このすこし前には実弾発砲もおこなわれた ©安田峰俊

 また、毎月のデモの日程や場所は、おおむね前月末ごろ~数日前には告知されている。デモごとに「光復元朗(元朗を取り戻せ)」や「警察の暴力反対」などのコンセプトも設定されているうえ、そうした各コンセプトに異論を唱える声はほとんど聞かれない。

 そもそも、当初は逃亡犯条例改正案への反対運動だった香港デモは、7月ごろから警察の暴力行為への独立調査委員会設置などを求める「五大要求」の貫徹要求運動に変質したが、「五大要求」の決定や、内容の一般参加者への浸透は異常にスムーズだった。不動産価格の引き下げや中国人新移民の流入制限といった、一部の参加者との親和性が強い主張を要求に含めてくれと抗議する声も、ほとんど聞かれない。

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 異論が少ないのは「不譴責(他者を批判しない)」「不割席(分裂しない)」といったスローガンがデモ参加者に共有されているからだろう。だが、そもそもこのスローガンがなぜすんなり共有されたのかも不思議である。

 主張の統一、大規模なデモや集会の全体戦略や日程・場所の策定、海外の反中国勢力や香港内のシンパの富豪などから大量に流れ込んでいるとみられる活動資金の管理といった高度な意思決定は、統括組織Xの内部でかなり慎重に決められているのではないかと思える。

「2ちゃんねるのオフ会」「アノニマス」形式?

 もっとも、統括組織Xは仮に存在したとしても、既存の政治運動団体や活動家とはほぼ無関係だろう。日本のメディアで「香港デモのリーダー」としてよく取り上げられているジョシュア・ウォンや周庭などの顔ぶれも、おそらく加わっていないはずだ。

 以下、哨兵や文宣の組織構造を見た上での私の想像を書く。香港デモの統括組織Xは、たとえばゼロ年代に流行した日本の2ちゃんねるのオフ会行動(2002年にフジテレビに抗議する目的でおこなわれた湘南海岸のゴミ拾い運動など)のメンバーや、2010年代前半に猛威をふるったアノニマスなどに近い形式で、意思決定がなされているのではないだろうか。

 すなわち、互いに顔や名前も知らない究極のコアメンバーたち(一部は海外に在住していても不思議ではない)がサイバーコミュニティ上で会議する形で主要な決定をおこない、傘下の哨兵や文宣などの各部隊にそれを伝達する形式が取られているのではないかと思えるのだ。

10月1日夜の大規模衝突後、銅鑼湾付近で筆者が拾ったガイ・フォークスの仮面。いうまでもなく、この仮面はアノニマスのアイコンでもある ©安田峰俊

 それはさておき、ビラの内容やTelegramへの投稿、果てはSNS上などでの日本語での情報発信や、吉野家の店舗の破壊行為にいたるまで、香港デモで見られるさまざまな行動が、慎重な検討と作戦立案のうえでおこなわれていることはほぼ間違いない。

 猛烈な燃え上がりを見せている香港デモで、数十万人から数百万人の参加者を動かすシステムはどうなっているのか。デモのイデオロギーそれ自体以上に、なかなかミステリアスで魅力的な話だと思っている。

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