香港で逃亡犯条例改正案問題を発端に発生した大規模な抗議運動は、発生から100日以上が経った現在も収束の気配を見せない。この事件は日本国内でも比較的関心が高く、催涙弾が飛び交う激しい衝突現場のレポートやデモ参加者の肉声、事態の背景などが数多くのメディアで報じられてきた。
意外と少ない「体制側」の意見の報道
だが、意外と少ないように思えるのが香港の「体制側」の意見の紹介だ。
もちろん、香港政府は北京の中国政府の強い影響下にあり、重要な政策決定は北京の意向に従わざるを得ないのだが、いっぽうで香港の立法会議員(国会議員に相当)の一部は普通選挙で選出され、市民にはデモ活動や体制批判的な言論も許されている。ゆえに中国内地と比較して、香港政府はある程度までは民意を汲み取った政治をおこなうことが求められている。
今回、私があえて話を聞いたのは、香港政界では建制派(
もっとも田北辰は、今回の抗議運動の初期段階である6月14日に逃亡犯条例改正案の慎重な検討を求める声明を出すなど、建制派としては尖ったポジションにいる(ちなみに彼の兄の田北俊も大物政治家なのだが、2014年の雨傘革命の際、当時の行政長官だった梁振英の辞職が必要であると発言。北京ににらまれて中央政府の政治協商会議代表から外されている)。
香港デモの姿をさまざまな視点から知るうえでは、現体制を擁護する枠内の人たちの現状認識と、彼らが考える解決案
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デモはなぜここまで大規模化してしまった?
――逃亡犯条例改正案への反発から始まった香港デモですが、9月4日に同案の撤回が示された後も終わる様子がありません。田議員は現在のデモ参加者たちが何を求めていると思いますか?
田北辰 発端となった逃亡犯条例改正案の問題から話させてほしい。抗議運動がここまで深刻になったのは、改正案問題がいくつかの要因を与えたと考えている。まずひとつめに挙げたいのは、香港政府側が全体的に説明不足のきらいがあったことだ。
――逃亡犯条例改正案が検討された契機は、2018年2月に香港人男性が旅行先の台湾でガールフレンドを殺害した事件です。香港から台湾への犯罪者の引き渡し問題が発端となりました。
田北辰 ああ。しかし、台湾の殺人事件とこの件(中国への容疑者送還を含めた逃亡犯条例改正案)は、別々に解決すべきだったのだが、一緒に進められてしまった。結果、条例改正案に反対する人の宣伝によって、「たとえ香港の域内でも、中国内地で違法とされる行為を犯せば、中国内地に送られて現地で裁かれる」といった誤解をする市民が多く出たのだ。