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体制側が語る香港デモ「政府は完全に判断を誤った」「警察はもう限界だ」――大物議員に聞いた

体制側が語る香港デモ「政府は完全に判断を誤った」「警察はもう限界だ」――大物議員に聞いた

2019香港デモ 現地ルポ#3

2019/09/23

genre : ニュース, 国際

note

――ただ、毎晩のように起きる警官と市民の衝突では、もっと多くの人が衝突に加わっているように見えます。

田北辰 その通り。極端に暴力的な人たちの後ろには、数千人から数万人の血気盛んな若者たちがいる。いわば、今回の(警官隊との衝突を伴う)抗議運動は、まずひとにぎりの極端に暴力的な人たちが騒ぎを起こし、そこに非暴力的だが彼らの思想を支持する若者たちの集団が加わる形で起きている。

 さらにその後ろにいるのは、数十万人の普通の人たちだ。この普通の人たちは(それぞれ事前許可を受けた大規模な平和的デモである)6月9日、6月16日、7月1日、 8月18日のデモなどで姿を現している。

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「悪いやつら」ほどよく逃げる

――なるほど。確かにデモ現場を見ていても、そのような構図はありそうです。

田北辰 今回の1件を通じて、香港警察は1000人以上(注.9月16日までに約1453人)を逮捕しているが、そのなかには後者の若者たち(=「極端に暴力的な人たち」と一緒に衝突現場に出てくる血気盛んな若者集団)がかなり含まれている。

 むしろ、私が聞いたところでは、中核となる極端に暴力的な人たちは逃げ足が早く頭がいいため、ほとんど捕まっていないという。彼らを捕まえることが非常に重要だ。対して、それにつられた若者を捕まえる行為は意味がない。むしろ、警察に対する反感をむやみに招くことになるので、彼らの逮捕を盛んにおこなうことは適切でないとすら言える。

最前線の過激な人たちのすぐ後ろには、彼らの方針を支持する若者たちが控える。小中学生と見られる参加者も少なくない。9月15日、金鐘付近の衝突現場にて撮影 ©安田峰俊

 毎回の衝突現場では、デモ参加者側が先に手を出していることが多く、彼らには誤りがある。だが、過度の逮捕をおこなっている警察にも誤りがある。現代は誰もがソーシャルメディアになる時代だ。(逮捕の)刺激的な場面が撮影されてネットで広まることで、より多くの人がデモ参加者を支持するようになる。

 まったく、ジレンマだと感じるだろう? 最も暴力的な一団は逮捕できず、それにつられた若者を逮捕することで世論の反発が強まる。結果、数十万人の一般の市民が動き、彼らを支持することになっているのだ。

「警察の暴力に対する調査委員会」が最も重要だ

――デモ参加者らは7月以降、(1)逃亡犯条例改正案の撤回に加えて、(2)香港警察の暴力を検証する独立調査委員会の設置、(3)拘束された参加者の釈放、(4)当局側による「暴徒」認定の撤回、(5)立法会議員と行政長官(国会議員と大統領に相当)の普通選挙による選出という「五大要求」を掲げています。

田北辰 私は最前線のデモ参加者(=勇武派)とも平和的な参加者とも数多く話をした。もはや(1)の条例改正案の撤回は重要ではなく、誰も関心を持たなくなっている(注.9月4日に撤回が表明された)。また、「五大要求」の後半の(3)~(5)は必須ではないと考える人も多い。

 現在、多くの人が最も求めているのは(2)の調査委員会の設置だ。仮に香港政府がこちらに同意すれば、問題の多くは解決する。これが最も重要だ。