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デモ隊を「ほうっておく」ことは出来なかった?

――では、今回の抗議運動に対しても、香港政府側は5年前と同じく「ほうっておく」という選択肢もあり得るのではありませんか?

田北辰 なるほど(笑)。それは面白い質問だな。ただ、この問題はちょっと注意して答えることが必要だ。前回と今回ではちょっと事情が違うのだ。

 前回の占中(=雨傘革命)では、デモ参加者たちは路上を占拠しており、警察側に手を出すように迫りはしなかった。だが、今回の彼らは、あえて警察側に「手を出させる」よう仕向ける戦略を取っている。

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落書きだらけになった路上に展開する警官隊。旺角警署には毎晩のように群衆が押し寄せ、しばしば警官隊と衝突する。9月7日夜、太子にて撮影 ©安田峰俊

 今回の場合、香港政府側がデモ参加者を「ほうっておく」と、やはり(市民からの)批判を受けることになる。デモ参加者たちは公共物を破壊しているのだから、警察はそれを放置するわけにはいかないのだ。

 だが、ひとたび警察が手を出せば、なにかしら誤りは犯してしまう。デモ参加者側はアジ文書を多く出してそれを批判し、警察側を憎むムードをかき立てていく。

中国の軍事介入は「引き延ばせる」か?

――日本のメディアは、中国内地の人民解放軍や武装警察が香港に介入する可能性に強い関心を持っています。香港政府は事態をどう回避しようとしていますか?

田北辰 私の見るところ、香港政府はそれを引き延ばそうとしている。自分たちの警察力でなんとかできないかと。ただ、もしもそれができなくなるとすれば……。たとえばこういう状況が考えられる。

 ひとつめは、抗議運動が激化するなかで人命が失われることだ。これは現在はまだ起きていないし、決して起きてほしくはないが、仮にそうなれば多くの人の反感を集める(=そのため混乱状態が加速し、事態が次の段階へと動いてしまう)。

現在、過激なデモ隊を中心に「Chinazi(中華ナチス)」という表現が流行中だ。写真は9月8日、金鐘付近で撮影 ©安田峰俊

 ふたつめは香港警察が限界を迎えることだ。彼らがいよいよ疲弊して事態を押さえきれなくなると危うい。だが、そうした状況が起きない限りは、香港政府は(中央の武力介入を)引き伸ばせると思う。

北京に軍事部隊の要請をする万が一のケース

――ただ、激化する抗議運動の現状を見れば、犠牲者が出ることも警察の疲弊もあり得る話に思えます。

田北辰 仮に引き延ばせない状況となれば、行政長官はまず香港を戒厳状態にするだろう。夜間外出の禁止や(デモ隊がよくおこなう)マスク着用の禁止などさまざまな臨時的な法令が定まるはずだ。