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体制側が語る香港デモ「政府は完全に判断を誤った」「警察はもう限界だ」――大物議員に聞いた

体制側が語る香港デモ「政府は完全に判断を誤った」「警察はもう限界だ」――大物議員に聞いた

2019香港デモ 現地ルポ#3

2019/09/23

genre : ニュース, 国際

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田北辰 (穏健な)デモに加わっている数十万人の市民が求めているのは、公平な正義だ。独立調査委員会を通じて、警察の行為の是非が明らかにされ、またデモ参加者についても、どのようなバックグラウンドがあるのかを明らかにされることが求められている。

衝突の最前線で催涙弾に抵抗する過激なデモ参加者たち。右上の青い筋は警察側による放水。色水を付着させてその後の逮捕を容易にする目的があるとみられる。9月15日、金鐘付近の衝突現場にて撮影 ©安田峰俊

「背後にCIAがいる、台湾や日本がいる」デモ参加者の不満

――確かに世論調査でも、独立調査委員会を重視する意見が強いようです。

田北辰  現在、香港の社会では多くの人が警察に不満を持ち、暴力を濫用している、逮捕時や拘束中にデモ参加者を殴打していると批判している。

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 いっぽう、多くの人はデモ参加者にも不満を持ち、背後にCIAがいる、台湾や日本の勢力がいるといった(陰謀論的な)話をしている。

 現在の状況が継続すれば、香港社会は深刻な分断に見舞われてしまう。たとえば家族の間ですら意見によって分断されてしまいかねない。これは非常に憂慮すべきことだ。

デモ参加者が持っていた、レーザーポインターにスコープを付けたビーム銃。警官の目をビームで狙う。9月16日、銅鑼湾にて撮影 ©安田峰俊

 現在の香港にある独立監察警方処理投訴委員会(警察の監査機関)は、多くの市民から香港政府の一部分だとみなされており、信頼されていない。ゆえに(中立的な)法曹関係者が参加する独立調査委員会が必要なのだ。

雨傘革命はなぜ失敗した? 今回のデモと何が違う?

――今回の抗議運動の要因について経済問題を指摘する声もあります。不動産価格の高騰や若者の貧困化、過去の時代と比べて若者が将来への展望を抱きづらいといった問題です。これらは抗議運動の激化と関係していますか?

田北辰 もちろん関係はあるが、主たる理由ではない。5年前にも「占中」(注.オキュパイ・セントラル。雨傘革命の契機のひとつだが、体制側は雨傘革命全体をこう呼ぶ)があっただろう? だが、あれはうまくいかなかった。

 それはなぜか。占中のデモ参加者らは道路を占拠したが、政府が相手にせず放っておいたのだ。ゆえにデモ側は騒ぎを起こすことができず、警察に暴力を振るわせることもあまりなかった。結果、道路占拠をうっとうしがる市民も増え、民意は逆転し、デモ参加者らは自発的に立ち去ることになったのだ。結局のところ、(抗議運動の成否を決めるのは)民意ということだ。

2014年の雨傘革命。運動は9月末から12月中旬まで続いたものの、デモ隊の要求は政府側にすべて拒否された ©getty

 当時も不動産価格は非常に高く、人々は強い不満を持っていた。こちらは長年の問題であり、現在と状況が違うわけではない。だが、(雨傘革命の)当時の大人たちは若者を支持しなかった。それは社会運動の基礎を欠いたがゆえだ。

 対して、現在の抗議運動は警察や香港政府への批判という点で広く市民の賛同を得るにいたっている。社会運動の基礎があるわけだ。