田北辰 これは香港政府も望まない事態だが、(仮に戒厳状態に突入しても)言うことを聞かないデモ参加者はいるだろうし、警察がそれを充分に押さえきれないこともある。その場合は、香港基本法14条にもとづいて、北京の中央政府に軍事部隊を派遣する要請がおこなわれることになる。
……もっとも、私はこれは現時点ではありえないと考える。
ただ、警察とデモ参加者の対立は深刻だ。既に述べたように、大規模な衝突があれば警察側は必ず何か誤ちをおかし、それが市民の反感を招くという、頭の痛い悪循環に陥っている。
すでに香港政府の対応能力を越えているのでは?
――これだけの騒ぎが起きて、香港警察の人数的なリソースは足りているのでしょうか? 仮に東京で同様の騒乱が起きた場合は、埼玉や千葉など他の県警が応援に駆けつけるわけですが、香港においてそうした後背地は、中国内地しか存在しません。
田北辰 非常にいい質問だ。香港警察の限界は人数の点にあり、それが最大
率直に言って、香港は大規模な暴乱に対応できるようなリソースを持っていない。かといって、中国内地から人を連れてくるのは一国二制度に反する。たとえ中国内地に、それに対応できる人員が何万人いたとしても、だ。
――悩ましいですね。
田北辰 その通りだ。……むろん、あらゆる事態には終わりがあり、
「もはや、一定の民主化は不可避だ」
――今回の抗議運動が終わった後、香港政府はどのように市民と向き合っていくことが望ましいと思いますか?
田北辰 独立調査委員会の設置はもちろんだが、政治改革が必要だ。今回の運動を通じて、香港人の政治改革への要求は以前よりはるかに強まっている。今回、多くの市民は林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が独断専行でものごとを進めたと考えているはずだ。
現在の香港では、わずかな指名委員会のメンバー(注.定数は1200人)のみが行政長官を選出する資格を持ち、700万人以上の多数の市民はその資格を持たない。
――確かに、返還時に約束されていたはずの行政長官の普通選挙による選出は棚上げされ、かなり厳しい制限選挙がおこなわれ続けています。
田北辰 どのような選出制度であれ、かつては問題が発生せずに済んでいて市民が納得しているならばそれでよい、というところもあった。だが、いまや多くの香港市民はこの制度にはなはだ大きな問題があると感じている。市民は自分の1票で行政長官を選出したがっている。
今回の大規模な抗議運動は、