日本の朝鮮半島統治をめぐる日韓間の歴史認識の違いで、もっとも象徴的なポイントは「日本はいいこともした」という“事実”を韓国が決して認めようとしないことだ。日本統治時代を経験した人など私的、個別的にはそう語る人はいた。しかし歴史教科書を含む学校教育やメディアなど公式の歴史観においては絶対認められなかった。いや、私的な場でもその主張はダメで、時には暴力沙汰にまでなる。韓国ではタブーになって久しい。
その結果、韓国では日本統治時代に関する歴史は今も「抑圧と収奪と抵抗」だけで語られ、教えられてきた。異論は一切不可である。
それでも学問的には“真実”を求め、それを公論化しようという動きは以前からあった。日本による統治時代が朝鮮(韓国)の近代化の時期にあたっていたため、日本の統治が彼の地に近代化をもたらしたことは事実だったからだ。結果的に「日本はいいこともした」を認めようという主張であり、これは「植民地近代化論」といわれてきた。
「虚偽の反日公式史観」と戦ってきた元ソウル大教授
学界的には少数派ながら、この「植民地近代化論」者の代表格としてこれまで、研究を通じ「虚偽の反日公式史観」と長らく戦ってきたのが今回、「文藝春秋」11月号でインタビューした李栄薫・元ソウル大教授(68)だ。この夏、自らの編著で出版された『反日種族主義』(ソウル・未来社刊)はすでに10万部を超えるベストセラーになっており、韓国社会に衝撃を与えている(編集部注:本書の邦訳版『反日種族主義 日韓危機の根源』は、11月14日に文藝春秋から刊行予定)。
李栄薫教授自身は実証主義的な経済史研究が専門。これまで日本統治時代については統計を基に人口増加の事実や、土地・食糧収奪のウソなどを究明している。しかし本書では慰安婦問題を精力的に取り上げ、今や定説化、公式化している「20万人の素朴な少女たちが日本軍に強制連行され性的奴隷にされた」説を虚偽と断じている。慰安婦問題こそが韓国社会を覆う「反日種族主義」による歴史的ウソの典型だというのだ。