解説:共産党が銀行ギャング? 闇の事件の真相とは
日本共産党は7月の参院選でも1人区では野党共闘に加わるなど、一時に比べ柔軟な路線をとっている。ただ、1922年に非合法下で結成されて以来、進む路線は紆余曲折を繰り返した。一時は組織の一部が武装闘争に走った時期も。白昼、メンバーがピストルを手に銀行に押し入り、大金を奪ったこの事件は、「大森銀行ギャング事件」「赤色ギャング事件」とも呼ばれ、世間に衝撃と、共産党への根強い不信感を与えた。組織内部に潜入した警察スパイによる挑発、というのがほぼ定説だが、核心部分の真相はいまも闇に包まれている。
アメリカ映画ばりの大胆な犯行
「大帝都にギャングの脅威 三人組ピストル強盗 白昼悠々銀行を襲う」「周到を極めた計画的の犯行」(1932年10月7日付東京朝日朝刊)、「白昼大森の銀行(川崎第百支店)に三人組ピストル強盗 三万円余強奪して逃走 大東京『恐怖時代』出現」(同東京日日朝刊)――。アメリカ映画ばりの大胆な犯行がいかにショッキングだったか、新聞の見出しから分かる。続報では「捜査は五里霧中」「正体つかめず 無謀な不良とにらむ」などと、どんなグループの犯行なのか、捜査当局が絞り切れなかったように読める。10月8日付東京日日朝刊は、「犯人は何者?」という見出しで“推理合戦”を展開しているが、「案外近所の者か」(探偵作家・大下宇陀児)、「左翼でない」(元警視庁捜査係長)、「活動かぶれ」(女探偵)とバラバラ。探偵作家・江戸川乱歩も登場しているが、紙面が違うのか、本編で書かれているのとは異って「ギャングという気がする。極左の者は秘密資金を集めこそすれ、こんな凶行を演ずるほどの力を持ち合わせていないのじゃないかと思う」と語っている。
ところが、事件4日目の9日、事件は急展開する。「銀行ギャング三名逮捕 二十時間で急転一網 中に加わる全協一名」(10日付東京日日号外)、「銀行襲撃のギャング 全部三名捕縛さる 共産系が資金集めの犯行」(11日付東京朝日夕刊)。銀行ギャングとは別件の武器購入事件が解決の発端とされたが、それにしても展開がいかにも妙だ。以後新聞は、共産党の犯行がいかに計画的で反社会的だったかと、それを打ち破った“頼りがいのある”警察への信頼感を繰り返し強調した報道を続ける。「無軌道共産党に大弾圧を決意す」「女党員を家政婦にし 富豪邸へ住み込ます」「赤露記念日を期し 蜂起の陰謀発覚 恐るべき赤色テロ一味」……。