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 少し詳しく解説しましょう。軍事情報は、大きく3つに分類できます。まず、1つ目が映像や動画、写真の情報。2つ目が、信号や通信の情報。3番目が、人間を通じた情報、いわゆるヒューミントです。

 この中で唯一、韓国が優れていると言われていたのがヒューミントでしたが、親北路線だった金大中大統領時代に、この人的情報網が破壊されてしまい、いまでは即時に北朝鮮の情報を集めることが難しくなっている。ですから、韓国から日本に提供できる情報はほとんどありません。

インタビューに答える申氏 ©文藝春秋

 一方、映像などの情報については日本が優れており、信号や通信分野は韓日が同水準だと言われていました。韓日が直面するミサイルの射程や着弾についての情報は、初期の段階では衛星からの画像で伝えられます。韓国には軍事的に使える衛星がないので、日本かアメリカから提供してもらうしかない。また、日本はレーダーの情報も8隻ある日本のイージス艦や、地上のレーダーなど多様な情報収集網を持っています。

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 2016年11月にGSOMIAを結ぶ前は、韓国はアメリカを仲介して日本の情報を提供してもらっていました。しかしアメリカから「韓日で直接情報を共有してほしい」という要請があり、GSOMIA締結に至った経緯があります。それゆえに、韓国がGSOMIAを破棄することは、自国で得られない情報を、自ら捨ててしまう行為だったのです。いまや韓国は情報がない暗闇の中で戦っているような状況です。

異常な判断に従うしかない韓国軍

 この文在寅政権の異常な決断にもかかわらず、現役の軍人は表立って批判できません。鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官が国会で、「GSOMIA破棄で一番利益を受けるのは北朝鮮、ロシアだ」と答えるのが精いっぱいでした。

 思い起こせば、2018年12月、日本の自衛隊のP1哨戒機に韓国の駆逐艦が火器管制レーダーを照射した事件の際もそうでした。レーダー照射を受けたという日本側の主張が個人的には正しいと思いますが、あのときと同様に、現場の軍人は政権の意向に逆らえない状態にあるのです。

今年6月、シンガポールで会談に臨む(左から)韓国の鄭景斗国防部長官、シャナハン米国防長官代行、岩屋防衛相(当時) ©共同通信社

 政権から距離をとる有志の退役軍人たちは、今回のGSOMIA破棄が俎上に上がった8月7日、文在寅政権を強く批難する声明を、あえて日本語でも発表しました。

〈中国がロシアと北朝鮮との軍事的結束を背にして周辺国を圧迫する新冷戦時代にGSOMIAは、韓日安全保障協力の架け橋で、韓米日三角安保の土台〉

〈安保危機状況で、これと言った方策もなく"竹槍論"で国民を扇動してGSOMIAの破棄まで考慮することは国政の失敗を国民に転嫁する恥ずべき行為だ〉

〈文在寅政権の無責任な反日扇動は、国民の経済的苦痛を加重させるだけでなく、私たちの生存の重要な軸である韓米日安保協力を破壊する致命的な失策だ〉

 現役の韓国軍幹部も公には言えませんが、GSOMIA破棄は間違っていると思っているでしょう。