「あれ、もしかして浮いてる?」
台風19号の被害報道で、北陸新幹線長野車両基地の映像を見た。12両編成7本がきれいに並んで水没していた。衝撃的な映像だった。そしてよくみると右端の編成の様子がおかしい。本来は一直線の編成が等間隔に並ぶはず。しかしこの編成の車両のいくつかが傾き、架線柱や隣の車両に接触しているように見えた。車両が浮いて流されたようだ。
平均45トンの車体が水に浮いた理由とは
北陸新幹線用に製造された新幹線車両は、JR東日本の所有車がE7系、JR西日本の所有車がW7系という。どちらも共通の仕様で分け隔てなく運用される。水没した車両は、映像には見えない場所にも3本あったと報じられた。E7系が8編成、W7系が2編成だ。
E7系/W7系の1編成あたりの重量は540トン。1車両あたり平均45トンだ。それが水に浮く。なぜかというと、車体の気密性が高いからだ。
新幹線車両は高速運行するためトンネル突入時などで外気圧の変化が大きい。気密性を保たないと、乗客にとっては耳ツン現象など不快感を与える。ちょっとした隙間でも風切り音の原因になるし、空気抵抗となって走行にも影響する。
さらに、車体はアルミニウム合金だ。頑丈な金属の中でも軽量な素材。ダブルスキン構造と言って、簡単に言うと段ボール紙のような構造となっている。強度を保ちつつ、車体を軽くして加速度を上げ、電力消費を抑えるためだ。
つまり、車体に関して言えば航空機と同じように配慮されている。その結果、新幹線の車体は空気をしっかり保持したアルミ製の弁当箱のようなもの。45トンの弁当箱は、かくして大量の水に囲まれ、浮力に負けて浮き上がった。
車両新製は予想以上に時間がかかる
これはいろいろとマズイことになった。まず、すでに報道されているように、床下機器が泥水に浸かった。雨や雪に濡れる程度なら走行中に吹き飛ばせる。しかし、ふだん濡れない、流れる空気に触れないところは水が残り、錆もできる。泥水は乾きにくいし、乾いても泥が残る。電装系に泥が入り込むと、乾いた後でも通電してショートするかもしれない。床下機器はすべて、分解掃除する必要がある。
「修繕するより廃棄新製したほうが早い」という声もあるけれども、まずは切り分け作業が必要だ。予算はともかくとして、新製するにも時間がかかる。もともと、何年も前から綿密な計画によって発注、製造されるからだ。クルマだって人気車となれば2カ月から半年以上も待たされる。それが電車となればなおさらだ。製造ラインは少なく、常にフル稼働状態だ。突発的な120両の製造に応じられるメーカーがあるだろうか。