既存車両を北陸新幹線用に改造する手もある
長野新幹線当時に充当されたE2系は、周波数変更と30パーミル勾配に対応していた。E2系は現在も東北新幹線、上越新幹線で使われているけれども、長野新幹線向けE2系は専用仕様で全車が廃車済み。東北・上越新幹線仕様では周波数変更に対応していない。残存するE2系を改造して、周波数変更に対応という方法も検討されているかもしれない。
上越新幹線で使われている2階建て新幹線、E4系MAXの8両4編成は急勾配に対応する。そのうち2編成は電力周波数変更にも対応できる。しかし、大柄なE4系は満席時に重くなり、急勾配を上れないと判断され、実績としては軽井沢発の上り列車として臨時運転しただけだった。もし運用するのであれば、階上席または階下席のどちらかを封鎖するなどの対応が必要だろう。
4年かけて新造される車両を待つくらいなら、既存車両を北陸新幹線用に改造する手もある。改造であればJR東日本の工場でも対応可能だろう。不謹慎ながら、鉄道趣味的には興味深い。
じつは、E7系は上越新幹線に投入する計画があり、すでに「とき」4往復、「たにがわ」1往復で運用されている。この2編成は北陸新幹線に回せる。上越新幹線では2020年度までに合計11編成を導入し、2階建てE4系を置き換える計画だ。このうち10本をとりあえず北陸新幹線に回せば、2020年度内で北陸新幹線は通常ダイヤに戻る。ただし、老朽化しつつあるE4系がそれまで維持できるか、という問題はある。車両の廃車もまた計画的なもので、故障時や使用期限で交換する部品の在庫しだいだ。
予測できなかった水害を教訓に
ネット上では「車両基地が水浸しになる前に、車両を高架の本線に移動しておけば良かった」という意見がある。もっともだけれど、後の祭だ。すでに計画運休が決まり、本線上の送電は終わっていただろう。本線上では別の被害を予測して点検作業が行われていたかもしれない。そうなると、通電、安全確認などを実施して、浸水の察知から車両を動かせるまで時間がかかる。計画運休開始時に車両を待避すれば良かったという声もある。これも事後だから言えることであり、事前に気づいた人はほとんどいなかった。
しかし、1967年の「昭和42年7月豪雨」で、東海道新幹線の鳥飼車両基地(大阪府)が水没したときは、事前に車両を高架線に待避させたという逸話がある。当時は水害を想定して、定期的に訓練していた。こうした過去の教訓を掘り起こし、災害対策を定義し直したい。
千曲川は過去に何度も洪水を起こしており、その被害の教訓として「洪水痕跡水位標」を長野市内の要所に設置している。じつは新幹線車両基地のそばにもあって、嵩上げされた車両基地のさらに高いところに水位標がある。これを見ていれば……と悔やまれるけれども、今さら言っても仕方ない。そもそも車両基地など広大な設備は、安価で家も建てにくい土地が確保される傾向だろう。
誰も気づかなかったことを、責任者がなぜ気づかなかったと責めてはいけない。幸いにも車両基地の水害で命を落とした人はいなかった。現場にいた人たちからよく話を聞いて、今後の対策に活かしてほしい。
写真=浅沼敦/文藝春秋