ラグビーW杯で強豪を次々撃破し、無傷の4連勝で史上初の決勝トーナメント進出を果たした日本代表。死闘のグラウンドで、日本人離れした力で獅子奮迅の活躍を見せたのがナンバーエイトの姫野和樹(25)だ。
今から12年前、中学1年生の姫野をラグビーに誘ったのが、地元・名古屋市立御田中学校のラグビー部顧問だった松浦要司氏(42)である。松浦氏を訪ねて、姫野とラグビーとの出会いについて聞いた。
体の大きい子に片っ端から声を掛けた
「御田中のラグビー部は名古屋市で最も歴史が古いラグビー部でしたが、私が赴任した当時、12人制のラグビーをやるのに部員が15人しかいませんでした。3年生が抜けたら試合ができなくなる状態で、野球やサッカーとは違って、人集めのために片っ端から声を掛けて勧誘していたんですよ。口説き文句は『初心者でも出来る』『誰でもレギュラーで試合に出られる』。
特に体の大きい子や足の速い子は日頃からチェックしていて、姫野もその中の1人。仮入部で友達と一緒に来て、全然目立つ子じゃなかったんです。身長160センチ、70キロくらいでぽっちゃりしていた。僕もとにかく入部してもらわないと人数が揃わないので、まずは『センスいいよ、スゲえじゃん』って、とにかく最初は煽てていました(笑)」
実際に入部させてみると、姫野の非凡なセンスに気付いたという。
「ぽっちゃりしてる子は、どちらかというと不器用な子が多い。ところが姫野は器用にパスを投げるんですよ。それを誉めたら、声変わりしてない高い声で『ありがとうございます!』なんて楽しそうに笑っていました。ポジションは本人たちの希望を重視するんですけど、チームスポーツなので適性があります。彼は体格が良かったので、最初から(FW前方の)プロップでスクラムを組んでましたね」
当時の姫野は皆を引っ張るようなタイプではなく、チームの盛り上げ役でムードメーカー的存在だった。
「友達から『姫』と呼ばれてお調子者キャラでしたが、まだ中学生ですから精神的にムラもありました。試合中にレフリーの判定に不満そうな態度をとったり、相手の反則に感情的になったり。練習でも、すでに1年生から群を抜いた力がありましたから、私がチームメイトにケガをさせないように『本気はダメ』と禁止にしたんです。でも、本気でやりたくなりますよね。それで、姫野にスイッチが入っているのがわかると、呼び止めて『抑えろよ』と注意すると『なんで僕だけ全力出したらいけないんですかっ!』と向かってくる。
そんな時は、『顧問の言うことを聞けない選手はラグビーをやる資格はない。帰っていいぞ』と、きつく指導したこともありました。すると、一旦、グラウンドから出て行って、少し経つと『さっきはすみませんでした。もう一回やらせてください』って必ず謝りにくる(笑)。可愛くて素直で真っすぐな子なんです。部活も休まず、遅刻も一度もありませんでした」
姫野の1学年上は県大会で優勝するほどの実力で、そのメンバーにたった1人の下級生として加わり試合に出場。高いレベルに揉まれ経験を積んだ姫野のパワーは計り知れないほど成長していった。