「僕、結構自己中なんですよ(笑)」
本人も不思議なのだそうだが、トラックレースでは名前負けしてしまうような選手にもマラソンでは引かずに戦えるという。だからこそ、マラソンという競技への想いは強い。
「駅伝は自分が外すと周りに迷惑をかけるし、逆に失敗した選手がいるとどうしても『なにやっているんだよ』みたいな気持ちも出てしまう。僕、結構自己中なんですよ(笑)。でも、マラソンは本当に自分との勝負という感じがします。最近は箱根をはじめ駅伝から陸上競技に入る人も多いですし、僕も駅伝は好きですけど、やっぱり陸上競技って最後は個人競技なんだと思います」
淡々と、クールに自分の過去を振り返る橋本の語り口は、常に穏やかだ。
いまでも後輩たちの駅伝の結果は気になるし、同期の選手たちの動向も気にはしているという。これからはニューイヤー駅伝に向けたトレーニングも始まる中で、チーム想いの一面はもちろん、ある。
ただ、実はその根底には誰よりエゴイスティックな、マラソンランナーとしての矜持があるような気がした。
――「もし箱根駅伝を走っていたら」と考えることは無い?
そんなことを思ったので、最後に、こんな意地悪な質問をしてみた。
――成長したいまだからこそ、「もし箱根駅伝を走っていたら」と考えることは無いですか?
「そうですね……。『もし走っていたら、どのくらいの記録が出たんだろう』とかは考えることはありますね。でも、そのくらいですよ(笑)」
想像で振り返った箱根路でも、相手は山の神でもなければ、他チームの選手でもない。あくまでも、敵は自分。
考えれば、当たり前かもしれない。
だって橋本は、自分が「強い」と誰よりも知っているのだから。
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今後は駅伝シーズンを経て、2024年のパリ五輪を狙って走っていくという。いまこだわっているのは、マラソンで「勝つ」ことの重要性だという。
「結局、MGCを決めたレースも5番で、今回のMGCも5番だったんです。結果に納得はしているんですけど、勝ててはいない。優勝した時の感覚をまた味わいたいんです。どんな形でもいいから勝って、勝つことで次につなげて行ければいいかなと思います」
「2時間6分台までは想像できている」という橋本は、これからどんな結果を残していくだろうか。
写真=松本輝一/文藝春秋