史上初のベスト8に進出した日本代表。そのチームを率いるニュージーランド人のヘッドコーチ、ジェイミー・ジョセフとはどんな人物なのだろうか?
1991年の第2回大会からラグビーW杯を取材。30年以上、日本代表を取材しているジャーナリストの村上晃一氏に聞く、指揮官の横顔。
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ジェイミーの手腕を「疑う人もいた」
2016年の就任当初は正直ジェイミーのことを「疑っている」人も多かったのですが、初めての8強進出でまぎれもない名将になりました。
なぜ「疑われていたか」。それはメディア向けに面白いことをあまり言わないからかもしれません。前任のエディー・ジョーンズはキャッチーな言葉を多用して、メディアが書きやすいことを言ってくれた。しかも2015年、南ア戦「ブライトンの奇跡」など、W杯で3勝という結果も出した。「エディーさんは良かった」とメディアやファンは好感を持っていました。一方、ジェイミーは「発信」にそれほど興味がなかった。
“執行役員”のような立場
そもそもラグビーのヘッドコーチは、試合中スタンドにいますから、サッカーの監督のように選手たちに直接指示を出しません。ラグビーを見慣れていないと「ヘッドコーチって何をする人なんだろう?」と疑問に思う人もいるでしょう。
ラグビー界でよく言われるのは「コーチは選手たちを『港まで運ぶ役』で、そこからはキャプテンを中心に大航海(=グラウンド)に出航する」。だからコーチの一番大きな役割は「準備」。一旦試合が始まったら、もう選手が考えるしかない。そこでいい判断が出来るように準備をするのが、ヘッドコーチの肝なんです。
今の日本代表で言えば、ヘッドコーチがジェイミー。アタックコーチにトニー・ブラウン、ディフェンス・コーチにスコット・ハンセン、スクラム・コーチに長谷川慎――と細分化されたチームがある。その全てをまとめる、会社でいえば、社長……よりも現場に近い執行役員のような存在がジェイミーなんです。そんなジェイミーのこれまでを振り返りながら、この名将が日本代表をどうやって「準備」してきたかを紹介したいと思います。