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 ちなみに後楽園は、貞享4年(1687)に藩主の池田綱政が着工し、元禄13年(1700)に一応の完成をみた大名庭園です。兼六園(石川県金沢市)、偕楽園(茨城県水戸市)と並ぶ日本三名園のひとつに数えられ、岡山城天守を借景とした美しい景観が楽しめます。歴代藩主もこの場所に佇み、この景色を眺めることがあったのでしょうか。殺伐とした情勢下で築かれた岡山城の天守が、この頃には平和のシンボルになっていたのかと思うと感慨深いものがあります。

後楽園から望む岡山城天守。

倹約令から生まれた、豪華な郷土料理

 寛永9年(1632)に岡山城主になった池田光政は、世界最古の庶民のための公立学校、閑谷学校を創設した人物でもあります。光政は陽明学を奨励し、藩政にも手腕を発揮しました。

 光政は質素倹約も重んじたといわれます。「食膳は一汁一菜とする」という光政の倹約令に反発して、庶民により「備前ばら寿司」なる料理が考案されました。隠し寿司とも呼ばれ、具材を華やかに飾るちらし寿司とは異なり、さまざまな具材をすし飯に混ぜ込んで、「あくまで一菜だ」と主張したのがルーツだそう。おいしいものを食べたい気持ちが生み出した、人々のユーモアあふれる知恵と工夫にほっこりします。

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 ホテルグランヴィア岡山・吉備膳の「烏城黄金かくし寿司」は、からくり箱のようなお店のオリジナルの木箱に入った、ユニークな隠し寿司です。運ばれてきたお寿司は、蓋を開けると錦糸卵が乗っただけの質素なものですが、一度蓋を閉じて木箱をひっくり返し、底側の蓋を開けると、魚介や野菜が盛られた豪華な寿司が現れるのです。

ホテルグランヴィア岡山内、吉備膳の「烏城黄金かくし寿司」。 ©文藝春秋

 宝箱のように華やかなお寿司の具材は、岡山の名物ばかり。とろけるように甘い鰆の刺身や新鮮な蝦蛄、絶妙に酢漬けされたままかりのほか、シャキッとした黄ニラの食感と香りも楽しい一品です。

「酸味と塩気が強いのでお好みでどうぞ」と仲居さんから出された「煎り酒」が、新鮮な刺身の味を引き立ててくれます。日本酒と出汁で梅干しを煮切った、室町時代から醤油の代用品とされた幻の調味料だそう。これが、クセになる味。ぜひ味わってみてください。

お醤油または「煎り酒」でいただく。