“オマチスト”も唸る、岡山の銘酒
さて、おいしいものを食べた後は、銘酒が欲しくなるところ。ここで岡山の酒と聞いて「雄町米」と反射的に答える人は、日本酒フリークでしょう。雄町米とは、岡山県が95パーセント以上の生産を占める、幻の酒米(酒造好適米)のこと。近年は「オマチスト」と呼ばれるほど、雄町米でつくられた酒を好む人々が増えています。
雄町米は安政6年(1859)に誕生した酒米で、雄町の篤農家が伯耆大山参詣の帰り道に見つけた2本の稲を持ち帰り、選抜を重ねて慶応2年(1866)に育成したものといわれています。明治時代の品評会では「雄町米を使った吟醸酒でなければ金賞は取れない」といわしめた高評価の酒米でしたが、稲穂の背丈が高いため倒れやすく、栽培が難しいのが難点。「晴れの国」と呼ばれるほど気候が温暖で安定している岡山だからこそ栽培できる酒米なのです。
雄町米は粒が大きく心白が球状になっているため、米が柔らかく、もろみの中で溶けやすいのが特徴です。よって、ふくよかで丸みがあり、米の野性味と幅のある複雑な味わいが楽しめます。山田錦を使用した酒をフルーティーな傾向とするなら、雄町米で作った酒はうまみが強いのが特徴です。
今回取材した元禄元年(1688)創業の室町酒造は、雄町米の原型品種を用いた酒造りをしている酒蔵。試飲した「室町時代」の、おいしいこと! ふくよかで、華やかに香り、とにかくうまみが強いお酒です。棘がなく、上品で存在感があります。仕込水にもこだわりがあり、なんと、岡山藩池田家の御用水「雄町の冷泉」を使用しているそうです。雄町の冷泉は、岡山市内を流れる旭川の伏流水が湧出したもの。貞享3年(1686)に池田綱政によってつくられ、備前国一の名水として知られていた名水です。
日本酒にはお刺身などのさっぱりとした和食を合わせがちですが、「室町時代」などの雄町米を使ったお酒は、うまみが肉の甘みを引き立たせてくれるため、和牛とも相性がよいのだとか。魚であれば、西京焼きもオススメだそうです。帰宅後の楽しみというお土産もいただいた、岡山の旅でした。
撮影=萩原さちこ
※岡山城をめぐる旅の模様は、「文藝春秋」10月号のカラー連載「一城一食」にて、計5ページにわたって掲載しています。
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