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「倫理観に欠けている」批判に、「えっ、そこが面白いんだけど」

 トッド・フィリップス監督がパンフレットで語っているこの部分。

「監督はコメディ映画のイメージが強く、本作で驚いた映画ファンも多いと思います」という質問に、『ハングオーバー!』シリーズ(09年~13年)も同じくらいダークだと思うとし、

《あの映画(『ハングオーバー!』)は「倫理観に欠けている」とよく批判されますしね。「えっ、そこが面白いんだけど」と思うんですが。》

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 と答えている。

トッド・フィリップス監督と、ホアキン・フェニックス ©︎Kevin Winter/getty

 そして、監督はコメディの本質とは破壊的で不謹慎なものだと考えているのに、

《だけど今は、コメディを作りつつ、人を怒らせないことが非常に難しい時代です。》

 と語っている。続けて、

《世界はあらゆることに敏感になっていて、誰かを笑わせようとすれば誰かが怒る。もはや、笑えることが笑えないわけです。ならば、僕は違う場所でやろうと思いました。》

 あ……。映画を観て余韻に浸っていた私の心はザワザワし始めた。

「もしかして『ジョーカー』ってトッド・フィリップス監督の渾身のジョークだったのか?」と。

「M-1グランプリ」の構造と似ている

 もしそうなら、これは確かに大ネタである。コメディの枠を超えてみんな真面目に見ちゃっているからだ。

 私はこれに似た感覚に心当たりがあった。なんだっけ……

 そうだ、「M-1グランプリ」だ!

 M-1はお笑い番組である。しかし真剣に見る人が続出。私もそう。あのヒリヒリ感と緊張感はたまらない刺激がある。視聴者を引き付ける。

 そして何より演者のネタが年々高度になり、見る側はSNS等での番組実況や感想もついつい真面目になる。批評的になるのだ。

ロバート・デ・ニーロが演じたコメディアン、マレー・フランクリン ©︎2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & ©︎ DC Comics

「おい、なに笑ってんだ。漫才やってるんだぞ。真面目に見ろ!」

「そんなとこで簡単に笑うな!」

「審査員ちゃんと審査しろ!」

 というような感じで。

 よーく考えればこの構図は可笑しい。しかし「M-1を真面目に見る人」が続出すればするほどあの「お笑い番組」は大成功なのである。素晴らしいシステムではないか。

 実は「ジョーカー」も同じなのではないか?