【ハカの謎4】ニュージーランド人は、長らく生のハカを見たことがなかった?
実は以前、オールブラックスがハカを踊るのは国外遠征時に限定されていて、国内で行われるテストマッチでは数回の例外を除き、披露されたことがなかった。
「1987年、自国開催の第1回W杯でニュージーランド代表が踊ったのを機に、国内でも慣例として披露されるようになったのです。だからそれまでニュージーランドでは、国外遠征のテレビ中継でしかオールブラックスのハカを見たことがないという人がほとんどでした。W杯でオールブラックスが踊り出して以降、ニュージーランドのラグビーファンがみなハカを覚えて踊るようになり、国内でもどんどんファッションとして広まっていった経緯があります」(小林氏)
ただしニュージーランドでのラグビー試合において、ハカはやはり切っても切れないものなのだ。
「ニュージーランドでは昔からどの学校、クラブも独自のハカを持っていて、対戦前に互いのハカを披露し合ってきました」(小林氏)
スタジアムなどで素人のニュージーランド人が踊るハカもさまになっているのは、こうした若い頃からの年季がモノを言うのかもしれない。
【ハカの謎5】限られたチームにだけ試合前の踊りが許されているのは不公平ではないのか?
現在、W杯レベルの試合で試合前に民族的な踊りを披露しているのはニュージーランド、サモア、トンガ、フィジーのみ。この慣例はWR¥によって認められている。しかし特定の国だけに自チームのモチベーションを高め、観客を味方につけやすくするパフォーマンスが許されるのは、公平性を欠くとも考えられるのだが……。
「その件に関し、他国の代表チームが抗議したことはありませんが、個人としてメディアに対し不満を漏らした選手は、過去に何人かいます。しかし本格的な議論にまで発展したことはありませんし、今後も、例えばマオリ族からの強い中止申し入れでもない限り、オールブラックスなどが持つ特権がはく奪されることはないでしょう。長年ラグビー界のシンボル的に続いてきたセレモニーである上、何より世界中のファンが待ち望んでいるものですから。ラグビーがプロ化した以上、市場の要望を無視するようなことはしませんよ」(小林氏)
だからといってオールブラックスの対戦相手が、いつも受け身に甘んじているわけではない。有名な“抵抗”のひとつが、2011年W杯決勝でのフランスだ。この時、彼らはまず手をつないで逆V字型に隊列を作り、ハカが始まると今度は横一列で肩を組んだかと思うと、そのままぐんぐん前進してハーフウェイラインを超え、オールブラックスの間近にまで迫ったのである。試合は8―7でオールブラックスが勝利し、フランスはWR規定によって罰金を科せられたのだが、このW杯決勝でのハカをめぐる攻防は今も語り草になっている。