クラシック・ギタリストと国際ジャーナリスト、たった3度出会っただけの大人の男女が魅かれあう。情熱と現実の間で揺れ動く2人の愛の行方は……。

 毎日新聞連載中から反響を呼び、渡辺淳一文学賞に輝いた『マチネの終わりに』。累計50万部のベストセラーとなった平野啓一郎の代表作が、11月1日、いよいよスクリーンに登場する。

 天才ギタリストとして名を馳せるも、自らの音楽を見失い、苦悩する蒔野聡史を、アーティスト・俳優として第一線で活躍をつづける福山雅治が熱演。世界的な映画監督の娘で、パリの通信社に勤めるジャーナリスト・小峰洋子を、石田ゆり子が気品高く演じる。

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 蒔野と洋子が心をひらいて語り合う傍らには、こんなワインがあったのでは――そんな想像を膨らませつつ、作品や創作の秘訣について、作家の肉声にふれる。読者と作家との交流イベント「本の音 夜話」が10月10日、「ワインショップ・エノテカ 銀座店 カフェ&バー エノテカ・ミレ」で開催された。スパークリングワインのグラスを手にした平野さんに、ナビゲーターの山内宏泰氏が聞く。

 

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「美しい愛の物語を、僕自身が読みたかった」

――洋子と蒔野が最初に出会うのは、東京のスペイン料理店でした。カバ(スパークリングワイン)で乾杯しましたね。

平野 小説には五感に響くディテールが必要です。コンサートの余韻が残る打ち上げで、ほの暗い中、テーブルのキャンドルがきれいで。周囲の人々の会話は背景にすぎない。出会ったときから二人の話が通じあい、それが強い思い出になっている、ということを読者と共有することが大事で、パエリアの美味しさやワインの存在感が強すぎてはいけません(笑)。

 

――『マチネの終わりに』、40代として身につまされました。なぜ今、恋愛小説なのでしょうか。

平野 僕は、こう見えて愛を書いてきた作家のつもりなんです(笑)。『一月物語』は愛を主題にした幻想譚ですし、『葬送』ではショパンとサンド、ドラクロワの愛を描きました。『かたちだけの愛』も。でも、その印象は埋没しているのか、「恋愛小説、珍しいですね」ってよく言われるんですよ。

 対立と分断がしきりに叫ばれる今日だからこそ、美しい愛の物語を、僕自身が読みたかった。現実から解放される物語を書きたい、という思いが強くありました。