クライマックスのイメージから小説を書く
――洋子が蒔野のメールを読まずに削除してしまうところが印象的でした。
平野 彼女はあのとき、体調も悪かったし、強いショックを受けていて、見れなかったんでしょうね。端から見ればちょっと愚かに思えるところも、人間の真実として、大事だと思うんですね。読む人がページをかきわけて小説の世界に入りこみ、「なんでそのメールを読まないの?!」と洋子に言ってやりたくなったり、自分の友達ならどうするか、意見を聞きたくなる。そういう小説との関わり方もあるのではないでしょうか。
――小説のアイディアはどこから生まれるのですか。
平野 アイディアはいくらでも思いつくんですが、しばらく頭の中に置いておくと、だめなものは自然と消えていく。最終的には、クライマックスのイメージから小説を書くんです。ある象徴的な光景が浮かび、この人たちはどうやってこの場面にやってきたのだろう、とさかのぼるうち、ひとつの時間の流れの中で、物語が浮かび上がってくる。
『マチネの終わりに』で最初に思い浮かんだのは、コンサート会場。舞台の上に一人の男がいて、客席に女性がいる。二人が、他の人にはわからない思いを抱いている、という光景です。どうして彼らはそこにいるのか、と考えていきました。
作品世界をより深く楽しむために
作品世界をより深く楽しむために、世界的ギタリスト、福田進一のタイアップCD「マチネの終わりに and more」も発売中だ。ブラームスの「間奏曲 第2番」は、グレン・グールドの美しい演奏で有名な曲のギターアレンジバージョン。洋子が一番気に入った演奏が、蒔野の会心の出来だったことから、二人の心が通じ合う。
「二人のつかの間の関係も、人生の間奏曲だったのかもしれない。でも、それがこの上もなく美しい、ということもあるんじゃないでしょうか」と平野さん。いや、間奏曲では終わらないかもしれない。その先は、原作を読み、映画を見た人それぞれに、ゆだねられている。
写真=北沢美樹
INFORMATION
映画『マチネの終わりに』
11月1日(金)公開
https://matinee-movie.jp/