「アーノルド、我々のやり方が気に入らないんだったら、グループごとほかの会社に移ったっていいんだぞ」
だが、ショックレーより先に去っていったのは、彼の部下たちだった。
「良い人柄+優れた能力=良いリーダー」というウソ
1950年代のアメリカにおいて、安定した会社を飛び出してライバル会社を起業するということはあまりなく、相当な覚悟が必要だった。若い社員ばかりなだけに、「ノーベル賞受賞者にしてカリスマであるリーダーに逆らうのは恐れ多い」という声もあった。
だが、控えめで温和な言動の裏に精緻な頭脳を隠し持った化学者、ゴードン・ムーアは、反乱軍を集める決意をする。そして集まった“8人の反逆者”はショックレー研究所を去り、フェアチャイルドセミコンダクター社を起業する。
“8人の反逆者”の中心となったゴードン・ムーアとロバート・ノイスは、成功を経てフェアチャイルドセミコンダクター社を去り、自分たちの会社を作ろうと再び起業。のちのインテルである。
だが、経営者となったこの二人は、優秀な好人物にもかかわらず、理想的なリーダーとは言えなかった。
ノイスはMITで博士号を取った半導体技術者。学園のヒーローがそのまま成長したような好人物で、人に刺激を与えるカリスマ性があったが、親切で協調性が高いぶん、強い指示ができなかった。
ムーアも似たようなもので、権威を振りかざそうとも人の上に立とうとも思わなかった。
○上下関係や階級を嫌う
○人に嫌われたくないという気持ちが強い
○怒らない、怒れない
○部下を指導しても、せきたてない
○意見の不一致があっても、対立を避ける
これでは理想のリーダーにはなれない。
インテル流「外向きの人・内向きの人・実行する人」
理想のリーダー不在のインテルに登場するのが、アンディ・グローブだ。
グローブはハンガリー・ブダペスト生まれのユダヤ人で、第二次大戦後に亡命。渡米後に独学で英語を身につけ、ニューヨーク市立大学シティーカレッジを経てバークレーで化学工学博士となった苦労人だ。新卒としてフェアチャイルドに入ったが、ムーアを慕って退職。押しかけに近い形でインテルに参加した。やがて彼は実務的な経営者として、会社を動かしていくことになる。