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音楽に合わせ指示に沿うことで、ユーザーのアクションが動画としてアウトプットされる。そして、それがハッシュタグなどの形で、みんながサンプリングする人気曲として模倣的な動画を広げていく。

これは、かつてない映像表現のあり方だ。「#○○チャレンジ」のような施策を通じて、TikTok側もそうしたあり方を後押ししている。

真似すること、模倣すること。これは生活者の情報行動の特性の一つでもある。かつてフランスの社会学者のロジェ・カイヨワは、「遊び」を「競争」「偶然」「模擬」「眩暈」という四つに分類したが、ここでの「模倣(模擬)」もまた、人々の遊びを構成する要素の主要な一つであった。

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ユーザーはTikTokで「遊んでいる」わけで、これはいわゆる「大人のロジック」――ビジネス的な営利目的思考――とは異なる原理である。TikTokという場、および若者が好むメディア一般を理解するために、無視してはならない重要な面だと最後に指摘しておきたい。

その視点から見なければわからないものがあるし、ロジェ・カイヨワによれば、文化とは遊びのうえに成立するものに他ならないのだ。

天野 彬(あまの・あきら)
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層のメディア行動やSNSの動向に関する研究、執筆、コンサルティングを専門とする。著書に『シェアしたがる心理 SNSの情報環境を読み解く7つの視点』(宣伝会議)『SNS変遷史~「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)、共著に『情報メディア白書』(2016~2019年版、ダイヤモンド社)がある。ツイッター:@akira_amano