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「3.11」被災地での演奏

――さすが、という他ないですね……。みなさんが簡単に真似のできない唯一無二の技量をお持ちだと言うことがよくわかります。2011年の東日本大震災のときにも活動されたと聞きました。

「我々のいる朝霞駐屯地が災害派遣に向かう隊員たちのベースキャンプになっていたんです。被災地から一度帰ってきて少し休んでまた被災地に向かう、そういう隊員がたくさんいました。彼らに少しでも元気を出してもらえるような曲、たとえば『ロッキーのテーマ』や『スーパーマンのテーマ』を演奏したり、癒しになるような曲を演奏したり……。落ち込んでいるときは元気な曲がいいと思われているんですけど、実は悲しいときこそ悲しくて沈んだ曲で心を共感させると落ち着いたりすることもあるんです。『Time to Say Goodbye』など歌モノのバラードを隊員たちのリクエストも聞きながら演奏しましたね」

 

――もちろん被災地にも。

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「福島から宮城、そして岩手の北のほうまでいきました。先に先遣隊が入って情報を送ってくれて、演奏ニーズのあるところを確認して向かうという流れで演奏させていただきました。我々は陸上自衛隊なのでマーチといったら陸軍分列行進曲が本来なんですけど、ある町で軍艦行進曲をリクエストされましてね。その町では船が港から出港するときに毎日軍艦マーチを流していたそうなんです。だからぜひということでお願いされまして、演奏したんです。そうしたら町の人が総出で見にきてくれて……」

こちらは毎年11月に日本武道館で行なわれる自衛隊音楽まつりの様子 ©共同通信社

自衛隊に「ここではできません」「無理です」はない

――リクエストにも応えつつどんな場所でも演奏できる。まさに音楽隊の本領発揮、といいますか。

「音楽隊に限らず自衛隊特有の能力だとは思うのですが、我々は『ここではできません』『無理です』ということはない。楽器の搬入はもちろん食事も移動も全部自分たちでできますからね。それで少しでも被災した方々のお役に立てたならよかったな、と思います」

即位の礼での活躍、自衛隊音楽まつりや儀仗の際のはなやかな姿が目につく陸上自衛隊中央音楽隊。彼らの真髄は“どんな環境でも変わらずに演奏する”という他には決して真似のできない類稀な技術にあった。それこそ“自衛隊の音楽隊ならでは”なのだろう。
(全2回の1回目/#2 日本最高峰の吹奏楽団――陸上自衛隊「中央音楽隊」はどうすれば入れる?へ続く)

写真=佐藤亘/文藝春秋